硬化する五線譜
待っていた。次々に流れていく今という時間の中で、たくさん立ち止まりながら待っていた。たった一人で歩むことを嘆きながら、あの止めどなく流れていた日々に焦がれながら。
見えないのが怖くて、曖昧なのが不安で目に見えるような形がほしくて繋いだはずの温かな手は、いつの間にか何もかものを拒絶しながらも求める冷たい鎖へと変わっていた。
それでも僕は待っていた。彼が追いかけて、掴まえて、再び僕の手を握り締めてくれることを。冷酷な棘をたくさん備えた鎖で傷だらけになった手のひらに、馬鹿だなと言って笑って触れてくれるのを、それこそ馬鹿みたいに待っているのだ。
もう何もかも変わってしまって、皆も変わって、なのに僕だけ何も変わらず変われず薄氷の上を恐れながら歩んでいる。
もしかしたら僕の隣に変わらず彼がいて、鎖ではなく彼の手を握って、こんな道じゃない場所を進むことが出来る未来があったのかも知れない。僕には見えなかったものが彼には見えていた。信じて頷けば良かったのかも知れない。後悔してるんだって言ってしまえば良かったのかも知れない。
けれど僕は頷かなかった。
言わなかった。
そんなことをしてしまえば描き上げた赤司征十郎というものが崩れて消えてしまう気がしたのだ。塞がりかけていた傷口に爪をたて掻きむしる。
きっとこれは僕の罰なのだ。爪が瘡蓋を破り抉り取る。冷えた手に染みる熱い滴に歯を食い縛った。
これは忘れてはならない傷なのだ。治ってはならない、癒されてはならない痛みなのだ。途切れることなく進む日々の中で色々なものが風化していく中で、これだけが変わらずここにある。
待っているのだ、僕は、ずっとずっと、馬鹿みたいに。彼が追いかけて、追いついて、この傷に気付いて、塞いでくれるのを。
彼じゃないと駄目なのだ、彼にしか許されていないのだ。
だから僕は今日も誰の足音も聞こえない薄氷の道で、棘で手のひらを裂いて傷口を掻きむしって、死んだように足を動かしている。
ただただ彼を待ちながら。
rewrite:2021.12.12 | BGM:Re:Re: / ASIAN KUNG-FU GENERATION