どこにもどこかにもいない人


水の玉が割れるような軽やかな音と一瞬の光に、赤司征十郎は大きな猫の目を瞬かせた。何が起きたのかよく分かっていないような、少しだけ無防備なその顔を再びフラッシュが切り取っていく。
光の目映さに赤司は目をきゅっと瞑り顔を背けた。

「またお前か、工藤

ちかちかする、と目を手のひらで覆った赤司に今しがた彼へフラッシュを浴びせた男、工藤大和はやたらとにこやかな笑みを向けた。

「よお赤司、また俺だぜ」

カメラのモニターで先程撮影したものを見返しながら、大和は口元を少しだけ歪める。

「赤司はいつ撮っても綺麗だな、人形みたいだ。ああでもさっきのは猫みたいだった」

大きなカメラをいじる指を見つめる赤司は、いつもの何を考えているんだか分からない顔をしている。前はもう少し表情豊か、とまではいかないが笑ったり怒ったり年相応な顔をしていたのに、と赤司の平坦な顔をちらりと横目で見た大和は少し眉を下げた。
赤司は少し変わった。どう変わったのかということは上手く表現できないが、変わってしまったように思う。どこか感情も表情も希薄になったように思うのだ。
もう随分とカメラの記録にあの時折見せていた子供のような笑みはない。
大和は赤司の鏡のような瞳を見つめた。こちら側を映すばかりで向こう側など一切見せないその目に、一抹の寂しさのようなものが過ぎる。

「赤司さあ」

それだけ言って、一向に何も言わない大和に赤司は何だ、と先を促したが彼は首を振りなんでもないと目を逸らした。
言いたいことも聞きたいことも沢山あるけれど、どれひとつ口にしてはならないような気がしたのだ。言葉にした途端、壊れてしまう気がした。
顔を顰めた大和がまたカメラを操作し赤司へとレンズを向ける。

「赤司は本当に人形みたいになったな」

フラッシュ。

「綺麗だけど空っぽだ」

カメラを下ろしてどこか悲し気に笑った大和はそのまま赤司に背を向け去って行った。
その背を見送る瞳が微かに揺らいでいたことを、彼が知ることはないだろう。

rewrite:2021.12.12