きみの影踏み


最近、どうも赤司が妙だ。
元々口数が多い方ではないが、ここ数日は業務連絡や指示以外にはほとんど口を開かない。レギュラー陣で共に帰路についてもほとんど会話に参加せず、青峰たちも赤司の様子がおかしいと思っているようで度々心配そうしていた。
ただの勘でしかないが、このままでは何か手遅れになるような気がしてその日、とうとう俺は赤司に声をかけた。

「赤司」

ボトルを片手にどこかを見つめている赤司に近付くと、やけにのろのろとした動作で振り返った。

「何だ?」

赤い目は確かに真っ直ぐ俺を見ている。
けれどどこか焦点がずれているように思えてならなかった。目が合っているのに合っていないような、俺自身をすり抜けて背後でも見ているような、そんな奇妙な感覚に襲われる。

「何かあったのか?最近のお前は変だぞ」

そう直球でぶつければ「すまない、少し色々あって」と薄く笑う。それから「もうすぐ会えるんだ、やっと会える」とだけ言って口を閉ざしてしまった。
それきり何を聞いても薄い笑みを返されるだけで何ひとつ分からず、赤司の様子が妙なこと以外特に何事もない日々が続いたある日、赤司はふらりと消えるようにいなくなってしまった。
昼休み、購買へ行った紫原たちを待っていたとき、不意に赤司は立ち上がり、

大和に会いにいってくる」

と言った。その眼はまた何もない場所を見つめている。
大和と言うのが誰だか分からず問えば、

「大切な人だよ、遠いところにいてずっと会えなかったんだ」

と久しく見ていなかった笑顔が浮かんだ。
けれどその眼。俺を見ているのにどこも見ていない虚ろな眼が恐ろしくて、一瞬言葉を呑んだその間に赤司はさっさと食堂を出て行ってしまった。
そうして、それきり。どれだけ探せど何処にも些細な痕跡ひとつありはしない。
あの日、赤司が食堂を出てすぐやって来た四人にその話をした時、紫原は目を見開き「無理だよ」と言った。

「無理だよ、だって、その大和って人、もういないから、ずっと前に死んじゃったって言ってたから、もう会えないよ」

『もうすぐ会えるんだ』

一体お前は、誰に会いにいったんだ。

『やっと会える』

rewrite:2021.12.11