独の心音


梅雨明けと共に何かが去って行った。無言の帰り道、突き抜けるような青空を睨むように見上げるその横顔はどこか投げやりな色をしている。
少しずつ、線路のレールが分岐していくように離れていっているのだろうとどこかで思った。怯えている子供のような、警戒心の強い猫のような、ピンと張り詰めた雰囲気を微かに感じる。少し離れた位置にある肩は何かもを拒絶するように強張っていた。
一体彼は、何をそんなに拒んでいるのだろうか。
遮断機の音が聞こえる。
目を向ければ、緩やかな坂道を上った先の線路を列車が走り抜けていったのが見えた。線路。ふいにいつか交わした不思議な話を思い出した。線路の先の国の話、彼は覚えているだろうか。

大和

正面に固定されたまま動かぬ瞳に呼びかける。
しかし彼は決して僕を見ない。

「線路の話、覚えているかい」

構わず問えば、くっと息が詰まったような小さな音が聞こえた。

「ああ」

突き放すような、小さな棘を幾つか纏った短い声。一体何をそんなに拒んでいるのだろう。何をそんなに怖がっているのだろう。
坂を上りきり、線路を渡る。ふと気付けば視界のどこにも彼が居らず、何処に行ったのだろうかと振り返れば線路の向こうに立ち尽くしていた。
何かあったのだろうか、彼はじっと睨むように目の前の線路へ視線を投げている。

大和?」

どうした、と問う前に彼が顔をあげた。どこか怒っているように熱を持った、けれど遠ざけるように冷ややかな目が真っ直ぐに向かってくる。
毎日顔を合わせているのに、こうして正面から見つめ合うのは久しぶりな気がした。

「お前はどこにいくんだ」

硬い声がごろごろと音を立てながら転がってくる。彼の言いたいことが僕にはよく分からなかった。

「僕はどこにもいかないよ」

引き結ばれた唇が無言の糾弾を始めるけれど、僕には彼が何をそんなに怒り責めているのか分からない。もういい、と言いたげに逸らされた視線にどうしてか胸が苦しくなって目を伏せた。
梅雨明けと共に、何かが去って行った。
僕は一体、何を失くしたのだろう。

rewrite:2021.12.10