雨、或いはあなた
遠くで雷鳴が轟いている。カメラのシャッターのような、一瞬の強い光にちかちかと目が眩んだ。目の前を通り過ぎて行くいくつもの大きな雨粒が地面に叩き付けられ白い飛沫となっていく。
開け放ったままのドアから、しばらく茫然と雨に濡れる屋上のコンクリートを見つめていた。
征十郎はまだ来ない。
「運命を信じている。輪廻を信じている。僕たちは逢うべくして出逢ったんだ。君を初めて見たとき、初めてなのに初めてな気がしなかった。考えてみれば当然だ、だって僕たちは前も、その前も出逢っているんだから。でもいつだってやっとというところで引き剥がされてきたんだろうね、だから僕は君を見るといつもどうしようもなく苦しくて切なくて死んでしまいたくなる。君もそうだろう?」
ざあざあ怒鳴るような雨粒の声を押しのけ言葉が蘇ってくる。
俺に向かって投げられるあいつの声はいつも少し苦しそうで、すごく愛おしそうな響きを持っていた。きっと俺の声もそう聞こえているんだろう。
「君の魂の端を、僕は確かに握っている。君も握っているだろう、僕のものを。だからどんなに離れてしまっても自然と惹きつけ合うんだろうね」
触れてくる征十郎の指はいつも少しだけ震えていた。
「終わりがみえるんだ。きっともうすぐ僕たちはまた離れ離れになってしまう。ようやく君を見つけて、繋がったのに、また離れてしまう」
悲しそうに悔しそうに目を伏せ、俺の手を強く握りしめたその手は驚くほど冷たかった。震え凍えた手を温めるように握り返せば、征十郎は潤んだ美しい赤い瞳を苦しそうに輝かせながら言った。
「いずれ離れてしまうのなら、僕はお前と共に終わりを迎えたい。裂かれて離れてしまう前に」
終演のベルが聞こえる。それは出発のベルでもあるのだろう。
きっと、魂に刻まれた彼の存在を求めて、握りしめた手を求めて、また当て所なく彷徨うのだろう。たった一瞬の逢瀬のために何度も何度も巡るのだ。
征十郎はまだ来ない。もう、先に連れていかれてしまったのかも知れない。
rewrite:2021.12.10