透くまぼろしの断片


気付けば色々なものを落としてしまっていた。落としたものは転がり、どこかへ消えてしまっていた。
小さく弱いライトに照らされた足元には自分一人分の影しかない。何も抱えていない両手を呆然と見つめても散り散りになってしまったものはもう戻らない。
遠くで大きな歓声が聞こえる。けれど真っ暗で、何も見えない。
ここはどこだ、あの声はなんだ、僕は一体何をしている?

「―――し、赤司、」

はっと目を開ければ大和がもうすぐ終着だぞ、と言った。揺れを感じここが電車の中だと気付いて息を吐く。

「珍しいな、お前が寝るなんて」
「そうかな」
「疲れた?」
「いや」

緩く頭を振って、目を開ける前に見た光景を追い出す。
またあの夢を見た。もう半年も経つのにまだ引きずっているのだろうか。緩く繋がっていた手を強く握ると、同じだけの力で握り返される。

「ヤな夢でも見たか?」
「少しね」

凭れるように身体を傾け、窓の外を流れていく景色をぼんやりと眺める。終着はどこだったろう。見た気もするけれど覚えていない。覚える必要もないだろう。

「降りたら一回出て、どっかで何か食おうぜ」
「いいよ」

がたんがたんと揺れ続け、段々速度を落としていく。
ぞろぞろと人が立ち上がり出入口に並び始めた。

「何食べたい?」
「美味しいもの」
「難しいこと言うな」

ふふ、と息を漏らすように笑い、大和は僕の手を引く。引かれるままに立ち上がり人の流れに乗って電車を降りれば、もったりとした暑さについ先ほど出て来たばかりの車内に戻りたくなった。

「暑い」
「そうだね」

改札で離れた手が、またするりと絡みつく。暑いっていうのに僕も大和も手は離さない。
何もないと思っていたけれど、ちゃんと僕は持っていた。一人分だと思っていた影はちゃんと隣にあったのだ。

「切符、次は何処までにする?」

僕の手を引き少し前を歩いていた彼が振り返った。

「一番遠いところまで」

彼と行ける、一番遠いところまで行きたい。
そこが僕の終着点になるのだろうから。

rewrite:2021.12.10