白と黒のジオラマ
きっと、凍り付いた冬を暖かい春が溶かすような優しくそうっと包みこむ愛を赤司征十郎は知らないのだ。見返りを求めない感情があるということを彼は知らないのだろう。
人が人に好意を向けるとき、そこには必ず見返りを求める薄汚れたものがある、彼はそう思っていた。そう思わせるに足る多くを彼は受け取り、そう思わざる得ない多くを見てきてしまったから、それが、それこそが真実だと思い込んでしまったのだ。
そうしてその結論に瑕があるなんてことは微塵も思わず、ただ注ぐだけの愛があるということも知らぬまま、彼の世界は完成してしまったのだろう。
完成し閉じてしまった世界は揺らがない。硬く閉ざされた扉には上等で、なんとも丈夫な鍵が掛けられてしまった。今更どんなものを投げかけようとも隙間すらない彼の世界には何一つ届きはしない。
それは、なんて悲しいことだろうか。何もかもを受け入れ、何もかもを拒絶するその姿が僕には堪らなく痛々しいものに見えた。
けれどそれ以上に、そんな彼にただひたすら心を傾ける工藤大和という人間が、哀れでならない。
ただただ彼の行末を案じ、彼の幸せを願い、彼の為にその身すら投げ出すことすら厭わない程ひたすらに赤司君を想う。そんな彼の愛情を赤司君は理解出来ないのだ。
彼が己を好いてくれることは分かっていても、どうしてそこまで自分を想っていてくれるのか解らない、彼のほしいものが判らない、自分がどうすればいいのか分からない。
そう淡々と言った赤い瞳はどこまでも冷え冷えとしていた。彼には本当に分からないのだ。工藤君がどうして彼をそこまで想うのかも、どうして何の見返りも要求してこないのかも、何一つ知らない。
なんて、悲しいことだろうか。
僕は何の関係もない部外者でしかないというのに、堪らなく苦しくなってしまう。注ぐだけの、溶かしあたためるようなあの愛は、彼には伝わらない。
冷たい凍りの扉は、何も通しはしないのだ。
rewrite:2021.12.07