うつくしく濁った鏡の向こう
真夜中、突然目が覚めた。
暗い室内は些か異様なほど明るい月光に照らされ、いつもとは違う顔を見せている。そのせいだろうか、不気味な静寂に満ちたこの空間は自分の部屋であるはずなのに全く知らない場所のように思えた。
起き上がりサイドテーブルに置かれた時計を見る。午前二時過ぎ。
丑三つ時だな、と無意識にあの暗い山の奥を思い浮かべてしまった自分に溜め息を吐き、再び枕に頭を沈めた。
耳の奥であの森の中で聞いた音が蘇る。不穏な風が木々を揺らし葉を舞い上がらせていたあの日は、今日のように明るい夜だった。灯りなどなくとも木々の隙間から差す眩い月明かりで何もかもが見えていた。
恐ろしげな風の音と、荒い自分の呼吸音と、シャベルが地を割り土砂を掬う音。それ以外の音は何も聞こえない。汗が頬を伝い落ちていく。月明かりに照らされた大和の顔は、眠っているようだった。生気の抜けた彼は、彼によく似せて作った精巧な人形のように見えた。
けれどそれは紛れもなく本物だった。
ぎいっと小さな、けれど静かな部屋には大きく響いた軋む音に目を開ける。不自然なほど明るい部屋、薄く開いたドアが目に映る。
ざわりと何かが背中を這った。
閉めていたはずだ。
そろそろと冷たい床に足を下ろしドアへ近寄った。見間違いでも何でもなく、開いている。閉めようか迷った末、僕は廊下を覗いた。
部屋とは違い月明かりの届かない廊下は暗く、よく見えない。けれどそこに何かがいる。その何かを僕は知っていた。
勢いよくドアを閉め、考える。
そんな訳がない、そんな訳が、ないのだ。嫌な汗が背中を伝っていく。考えるのをやめて僕はベランダから外へ飛び出した。
あの日も今日のような日だった。
辿りついたあの場所は何も変わっていない。触れた地面は固いけれど、恐怖心が溢れ微かな柔らかさを感じてしまう。不穏な風が木々を揺らし耳に障る。
一心不乱に掘った先に大和は眠っていた。あの時から何も変わらない、何ひとつ変わらない人形のような顔。
僕はあの日、一体何を埋めたのだろう。
rewrite:2021.12.07