繋ぎ目のひとつひとつ


日に日に彼が起きていられる時間は減っていた。
それに比例して、眠るのが怖いとは度々口にするようになった。眠るのが怖い、次いつ起きられるのか、いや起きられるのかさえわからないから、眠るのが怖い。
シーツの白が反射してただでさえ白い肌が青褪めて見える。その頬に涙の跡をつくりながら、彼は冷えた指先でそっと俺の手を握るのだ。そこに俺がいることを確かめるように、ここに自分がいると確かめるように触れられるその手を、俺は何も言えずにただ握り返すしかない。
彼は病気なのだという。俺にも詳しいことはよくわからないが一度眠ってしまうとなかなか目覚められないという病気なのだそうだ。半日眠り続けることもあれば、丸一日眠っているときもある。
最近では丸一日眠るだけならばまだ良い方で、三日、四日と続くことの方が多い。前よりも症状が進行している証だ。

「征十郎くんにもう会えなくなりそうで、怖い」

煙る淡い睫毛を伏せて、彼は小さな声で言った。どんどん希薄になっていく彼に大丈夫だよなんて言えるわけがない。
彼は自分が一体どんな状態なのか解ってしまっていた。嫌という程解りきってしまっているから、そんな無責任で楽観的なこと言えやしなかった。
ただただ冷えた手を暖めるように握り締めるしかない俺に、彼は吹けば消えてしまいそうな程儚く、今にも泣きだしてしまいそうな笑みを見せる。それから眠たげにゆっくりと瞬きをして、

「ごめんね」

と、その、息を吐くように優しくささやかな呟きにはっとした時にはもう彼の瞳は隠れてしまっていた。
人形のように血の気の失せた顔は静寂を保つ。微かに聞こえる呼吸音だけが彼がまだこの世に留まっていると証明していた。

……」

一体、俺は何をやっているのだろうか。力の抜けてしまった手を包み額に押し付ける。
まだ彼と話したいこともやりたいことも、行きたいところもたくさんあるのに。だからどうか、どうか、ここからいなくならないでくれ。
俺を、置いていかないでくれ。

rewrite:2021.12.04