どこにもない心臓のゆき先


ひとつ終わったら休憩してまた次の練習へ移る、それを淡々と繰り返しその日のメニューを少しずつ熟していく。延々とそれは続き、そうして変わり映えしない日々が繰り返されるのだ。
いつもと変わらない練習風景に、なんとなく、嫌気がさした。

「ねえ大和

ストップウォッチを握った彼は振り向かない。ただ声だけで、なにと返事をする。

「明日は何かある?」

かちかちと音を立て続けていたストップウォッチが止まる。紙に数字を書き込みながら部活があると彼は言って、作業を終えたのか漸く振り返った。
何を考えているのかいまいち解らない目が、じいっと僕の目の中を覗き込む。

「何かあったか?」
「ないよ」
「ないの?」
「ああ、何もないよ」
「なんで聞いたわけ?」
「わからない」

不思議そうにまあるくなった目に笑みが零れた。

「今日の征十郎は変だな」
「そうかな」
「ああ」
「そうかもしれないね」
「何かあったか?」
「どうだろう」

ふわふわと地につかない言葉しか出てこないのも仕方がない。自分でもよくわかっていないのだもの。
ちらりと練習を続ける部員を見て、再びああ嫌だなあと思った。もうすぐ僕もあの中に入らなければならない。

「ねえ、大和

部員たちから視線を彼へと戻し手を伸ばす。ボードを持つ手に半ば無理矢理指を割り込ませて握れば、居場所を無くしたボードが床へと落下した。

「明日何かある?」

絡めた手を強く握ると彼は驚きに丸めた目に困惑を滲ませた。

「部活があるけど」
「そう。明日授業が終わったら帰ろう」
「ええ?」
「家についたら必要最低限の荷物をまとめておいて。迎えに行くから。ああ、携帯はいらないからね」

よく解らないという顔をする彼に、着替えは二、三日分でいいと付け足す。

「逃避行しよう」

なんとなく、何もかも捨てて彼とどこか遠くに行きたかった。
嫌気がさしたのだろう、この生活に。驚いたように眉を上げ何かを言おうとした彼だけれど、結局何も言わずにただ頷いた。

「いいよ、お前が行きたいとこに行こう」

rewrite:2021.12.02