辿りついた空白
※赤司くんの双子兄主人公
たくさんの眼が見ている。
一挙一動、何から何まで全て、じっと見ている。何かひとつでも間違いしくじれば批判し非難を浴びせる眼差し。救いを求めただ導かれることを待つだけの人間が、そんな目でじっと僕を見ているのだ。僕よりも何倍も人生を生き様々なものを見ているはずの人間までもがそんな目で待っている。
僕は全知全能の神などではない、まだ大人にすら成りきれていないただの子供だというのに。何の力もなく、浅はかで愚かな子供であろうに。
「僕は何も知らない。何かが見える訳でもない。道など僕には見えないし、未来なんてものも見えやしない。ただそこにあるものが見えているだけなのに」
「でも周囲の人間より識っている。そして視えている」
「だがそれも程度がしれている。それに、皇の方がよっぽど識って視えているだろ?」
「俺は別だよ」
薄く笑ったその顔は、柔らかな諦観が滲んでいた。
「……あの眼に見られていると、僕は時々何もかも解らなくなる。自分が誰で、どうしてここにいて、何をしているのか」
あの神に救いを求め縋る様でありながら、粗探しをする監視の眼差しに晒されているとすっと音が遠のいて視界が狭まり暗くなる。
そうするともう、何もかも解らなくなってしまうのだ。何処に行けばいいのか、何を見ればいいのか。自分が誰なのかすらも解らなくなる。だから何を信じればいいのかも解らない。
きっと彼はそんなこと一度もないのだろう、ただ優しげな顔をするこの人は。
「俺は、もう自分がどこにいるのかなんて解らなくなっているよ」
少し大げさに肩を竦めた彼に笑みすら浮かんでしまう。何を馬鹿な、と。
「ならどうしてそうも平気にしていられるんだい?」
「もともと俺には何も無かったから焦る必要もないのさ」
「何も?」
「ああ、何も。自分すらもね。だから不安に思うことも怖がることもない。征十郎もさっさと棄ててしまえばいいよ、そんな重たいもの」
頬を撫でるその指は温かい。けれどその目が奇妙な空虚さを映しているのに、今初めて僕は気付いた。
rewrite:2021.12.01 | BGM:アイデンティティ / 椎名林檎