凍る精彩


磔にされたイエス・キリストは神の子とされていた。
そして今磔にされた哀れな彼もまた、人は神の子と呼び今なおそう呼ばれ続けている。いや、前より一層、様々な人に神の如く崇められている。
彼は彼自身を磔にすることで、己を殺してしまうことでより高みへと昇って行ったのだ。すると磔にされた方の彼は、さながら神への供物だろうか。
笑える話だ。
甘ったるいケーキを一口頬張り、暗い部屋で古ぼけ黒ずんだ十字架に縫い止められた彼を見上げる。打付けられた手からは今もまだ血は止まらず流れ続けていた。首に巻かれた鎖はとうに錆び付き時の流れを示しているのに、その血は決して止まることを知らない。

「馬鹿なひと」

なんて愚かで、哀れで、惨めな人なのだろう。彼の目のような苺を歯で押しつぶすとどろりと果汁が溢れた。
するりと首元に誰かの腕が絡む。細いのに筋肉質なその腕は、よく慣れ親しんだ彼のものだった。

「なあに、征十郎」

振り向かずにケーキにフォークを突き立てる。すり、と頬に彼の頬がすり寄せられ柔らかな髪の感触が少しだけくすぐったい。

「こんなところにいたら風邪を引いてしまうよ」

またこんな薄着をして、と僕の前で交差していた手が服をつまむ。

「ちょっと、あんまり動かないで。ケーキ落としちゃう」

切り分けたスポンジをまた一口頬張る。腕が邪魔で非常に食べ辛い。

「ふふ、ねえ、僕が食べさせてあげようか」

耳朶に触れる唇や吐息がくすぐったくて仕方がない。身を捩りながら首を振れば、つれないねと笑った。
それがなんとなく不愉快で半ば飲み込むようにケーキを平らげていく。最悪で最低な気分だ、甘くて幸せなはずの午後のひとときが台無し。

「食べたなら行こう」

腕を解き、彼は僕の前へ来ると手を引き立ち上がらせた。
彼越しに見える彼を見る。暗くて顔が見えない。
あの赤い瞳は隠されているだろうか、それとも今もこの全てを見ているのだろうか。

、行くよ」

引かれるままに背を向けるその一瞬、あの鮮烈な赤を見た気がした。

rewrite:2021.11.23