これ以上どうにもならないね
なんて不毛な関係なのだろうと白いシーツを手繰り寄せ笑いながら、よく冷えたミネラルウォーターのボトルを頬に押し当てた。まだ熱は引きそうにない。
ぎしりと軋む音と共にマットが揺れる。ひたりとくっついた肌はしっとりと汗ばんでいて、それがなんだか妙におかしくてくすくす笑っていれば赤い目が不思議そうに瞬く。
「なんだい?」
ほっそりとした美しい白い指が髪に触れ優しく梳いていく。彼は僕の髪を弄るのが好きなようで、気づけばよく触っている。
「なんでもない」
喉の奥でくすぶる笑いを抑えながら首を振れば首筋に髪が張り付いてきてあまりいい気分ではない。熱い湯船に浸かってゆっくりしたら、きっと最高にいい気分になれるだろう。
「ねえ、お風呂はいりたい」
「仰せのままに」
頬に一度キスをして部屋を出て行く背をぼうっと見送る。
彼が僕を好いているのは知っていた。僕も彼が好きだ。けれど僕たちは恋人などといったような甘い関係ではないし、そんなものになるつもりも更々ない。彼はまあ、違うようだけれど。
毎度毎度、彼は僕がはぐらかす度に恨めしそうな憎らしそうな目でじっとりと睨み付けてくるのだ。その全てを焼き尽くさんとする劫火の目が僕はたまらなく好きだった。
だってとっても、綺麗なのだ。
「薫」
いつの間にか戻っていた彼が、僕の手からボトルを奪い去る。
「そろそろ頷いてくれないか」
赤く熟れた唇が切なげに震えていた。熱を孕んだままの瞳はくらくらするような甘い輝きを放っていて、うっかり何もかも彼の思うがままになればいいなんて思ってしまいそう。
でも、
「だめ」
だって繋がってしまったら、後はもう切れてしまうだけじゃないか。
始まりには必ず終わりがあるのだから、僕がどんなに彼を好いても終わってしまうときは悲しいほどあっさりと切れる。そんなのってあんまりだ。僕は彼を手放すだなんてこときっと一生出来やしない。
だから、臆病で愚かな僕は、終わりもしなければ始まりもしない滑稽で不毛なここに、ただ立つしかないのだ。
rewrite:2021.10.17