ただのやさしさじゃつまらない
彼の愛は真綿のようにひたすら柔く優しく、綿飴のようにどうしようもなく甘い。僕がすっぽり入ってしまうような容器に目一杯愛を注いで、じっくり芯まで染み込ませるように浸からせるのだ。受け取りきれないほどのキャンディをくれる。
いつもいつもたくさんくれるから、僕はそれを食べ切れないし返しきれない。同じだけ僕だって渡したいのに、キャンディを渡す僕の手まで彼の愛で埋まってしまうのだ。
そうして僕がそのことに不満げな顔をする度に彼は僕にしか見せない顔で微笑む。それがあんまりにも嬉しそうだから、僕はどうしようもなくなってしまうのだ。
「あのですね、征十郎くん」
「何だい、改まって」
でも時々思うのだ。思ってしまうのだ。
「別に、いつまでも優しくなんてしなくたっていいんだよ」
僕は彼に傷付けられてしまいたいのだ。思い切り爪を立てて切り裂いて、治らない痕を残して所有の証をつくってほしい。
欲望のまま、何の加減もせずに。
「どういう意味?」
きょとんと目を丸くした彼が少しだけ首を傾げる。
「僕は征十郎になら傷付けられたって構わないよってこと」
時折明確なものがほしくなる。目に見ないたくさんの愛より、ひとつの印がほしくなる時だってあるのだ。
しかし僕が何より欲しているのは、その傷をつくった時に彼の心に生まれてしまうであろう後悔と自己嫌悪で。
僕を傷付けてしまうことを些か異常なほど避ける彼だ、他の要因ではなく自らの手で痕を作ってしまった時、そこには途方もない後悔と自己嫌悪が芽生えるだろう。そしてそれで己を滅茶苦茶に傷付けるのだ。
僕はそうやって、僕のことで苦しむ彼が見たいと思ってしまう。死ぬほど後悔してほしいのだ、僕のために、僕のことで。
「僕は征十郎になら何をされても、どんな酷いことをされてもいいって思ってるんだよ」
貴方の心を滅茶苦茶に引っ掻き回して、満身創痍にしてやりたい。
いつも返せずにいるけれど僕だってそれくらい、そんなことを思ってしまうくらい、彼のことを愛しているのだ。
rewrite:2021.10.17