青褪めてざらざらの眼差し


もう随分と時間が経っている。三杯目のコーヒーに口をつけ時計を見上げると、約束の時間はもうかれこれ三時間近く過ぎていた。
来ないつもりなのだろうか。そんなの許されると思っているのだろうか。がちゃん、とカップがソーサーに当たり硬い音を立てた。
テーブルに置かれた端末を手に取り少しだけ考えてみる。今、恐らく彼は家にいるだろう。家で行こうか行くまいか悩みうろうろして、それから落ち着こうとコーヒーを飲み、またうろうろ悩んでいるのだ。
発信履歴の一番上を選び、自分の想像を少し笑いながら耳を寄せる。しばらくの呼び出し音の後、少し息苦しそうな声が聞こえた。

「コーヒーはもう飲み終わったかい?僕はかれこれ三杯飲んでしまっているよ、お前を待つ間にね」
『ご、ごめん、あの、すぐ行くから……』
「いや、いい。僕がそっちに行くよ。ゆっくり残りのコーヒーを飲んでいるといい」

半分は残っているだろうからね、と笑えば、息を飲むような音がして掠れた了承と謝罪が聞こえた。それにまた笑って電話を切る。まだ残っているコーヒーを置き去りに、さっさと会計を済ませ店を出た。
何か買って行ってあげようかと一瞬考えたがすぐに向かうべきだと思い直し、そのまま電車に乗り込む。
今頃真っ青な顔で震えているのだろう。飲みかけのコーヒーを飲む気にもなれず、うろうろ部屋を歩き回り逃げる術を考えているのだ。
馬鹿な聖司。僕から逃げられるわけがないのに。
彼の家は駅のすぐ側だ。彼の部屋の大きな窓は駅側に面しているから、きっとそこから、僕が来るのを見ているのだろう。
見え始めた彼の住むマンション、その部屋辺りに視線をあげれば大きな窓に人が立っていた。やっぱりな、と少しおかしくて笑いながら窓辺の彼へ片手をあげてからさっさと中に入る。
窓辺で固まる彼を思い浮かべながら、真っ直ぐ部屋へ向かい鍵のかかっていないドアを押し開ければ、案の定彼は窓辺に立ち尽くしたままだ。

「おはよう、聖司。ああ、もうこんにちはかな?」

ちらりと見たテーブルには、やはり中身がまだ半分ほど残っているコーヒーカップが置いてあった。

rewrite:2021.10.17