頬に落ちる影のきれはし
何を勝手に考えて勘違いしたのか知らないけれど、そうやって勝手に決め付けて勝手に離れていくのはあんまりだと思うのだ。
僕の意思は、気持ちはどうなる?いつもそうだ、何をぐだぐだ悩んでいるんだか知らないけれど、僕は聖司がすきで、聖司も僕はすきっていうそれだけでもう十分だろうに。たったそれだけで二人並んで生きていくには十分すぎる程の理由となるんじゃあないのか。
「でも、俺じゃあお前に相応しくない」
またそれかと溜め息が出る。相応しい相応しくないで何もかも駄目にしてしまうなんて、そんなの馬鹿がすることだ。
「相応しいかどうかで、僕から離れてしまう程度の気持ちなのか」
「ちがっ、それは違う!」
「なら、なんでお前は僕から離れようとしているんだ」
ぐっと唇を噛んだ彼の顔が今にも泣いてしまいそうな、迷子の子供のように不安げに歪んだ。ふらふらと揺れ動く瞳の奥に燃えるものは何ひとつ変わっていない。
僕がすきだとひどく苦しそうにいったあの時と同じ目だ。
「誰に何を言われたのか知らないけれど、勝手に決め付けて離れていくのは身勝手過ぎるんじゃないのか」
すっかり黙り込んでしまった彼を少し睨むように見れば、とても後悔しています、と大きく書かれた顔をする。その眉を下げた情けない顔はどこか犬を思わせた。
「少しは僕の気持ちも考えろ馬鹿」
ふうっと息を吐けば、ごめん、とつっかえながらもう既に半分泣いているような彼が言った。
「ほら、おいで」
困ったやつだな、と腕を広げると、涙腺が決壊したようで子供のように泣いて謝りながらも飛び込んでくる。ぎゅうっと思い切り抱きしめてくる腕に笑みが零れた。顔が埋められた肩口が湿っていく感覚は少々気持ち悪いが、まあ良しとしよう。
背中を宥めるように撫で、次からは僕のことも考えてくれと耳朶にぴたりと唇をくっつけながら言うと、くすぐったそうにしながらもしっかりと頷いた。かわいいやつだ。
しばらくそのまま抱き合い、彼が落ち着いたのを見、覗き込む。
「それで、一体誰に何を言われたんだ?」
rewrite:2021.10.17