癒えるような傷じゃだめ
聖司が満月の夜になるとふらりと何処かに行ってしまうことに気が付いたのは、一緒に暮らし始めて随分経ってからだった。
何かと理由をつけて何処かに行っては、翌朝まで帰ってこない。聖司に限って遊び歩いているわけではないだろうが、やはり気になるものは気になる。
そうしてある満月の夜、また何処かへ出かけようとする聖司を捉まえて問えば心底困ったような顔をして言ったのだ。
『信じられないだろうけど、俺、実は人じゃないんだ』
何を言うのかと思えば、エイプリルフールもハロウィンもまだまだ先だ。何の冗談だろうか、と聖司を見ても冗談を言っているような顔ではない。
続けて聖司は、自分は人狼との混血なのだと眉を下げた。
『だから月がよく出るような日とか、満月はちょっと危なくて』
人を喰らわぬよう知り合いの家の地下に閉じ込めてもらっていた、と俯きながら語られたその言葉も冗談のような内容だったけれど笑うことは出来なかった。あまりにも彼が泣いてしまいそうな顔をしていたから。
ごめん、と呟く彼に何を言っていいのか分からず、その時はただ件の知り合いの元へ向かう背を見送った。
それからなんやかんやごたごたあったけれど、今も僕は彼と共に暮らしている。色々思うところはあるけれど、そんなことどうでもよく思えるほどには僕は彼がすきだったから。
ただひとつ、あれから変わったことといえば彼の籠る場所が知り合いの家ではなく、僕たちの家になったことくらいだ。今後も共に暮らすことを、月の出る晩も自宅で過ごすことを望んだ僕に彼が提示した条件は、彼の部屋に外側から錠をおろせる鍵をつけ月の美しい晩は必ず鍵を掛けることだった。
「じゃあ征、おやすみ」
ちゅうっとやけに可愛らしいリップ音を鳴らして僕の額にキスをした聖司が、自分の部屋へと姿を消していく。
今夜は満月だ。夜になる前に鍵を掛けようと彼の部屋の前に立ったとき、ずっと奥底にあった思いが浮かんだ。
もし朝になり目覚めたとき、自分が食したものが僕だったと分かったら、一体彼はどんな顔をするのだろう。
rewrite:2021.10.17