うそつきが守る針の筵


真っ白いパフスリーブの綺麗なワンピース。
それを纏うと僕は“わたし”へと変わる。彼は白いワンピースを纏う“わたし“をとても愛していた。愛おしそうに目を細めて、優しく優しく壊れものを扱うような繊細さで触れてくれる。

「今日はのすきなストロベリー・シャンパーニュだよ」

薄桃色の、わたしが一番気に入っているティーカップが目の前へ置かれた。
苺の甘い香りとシャンパンの仄かな香りがふわりと辺りを漂う。苺よりも赤い瞳を柔らかく細め、彼はどうぞと微笑んだ。彼が淹れてくれる紅茶はとても美味しいのは何度も飲んでいるから知っている。
ひとつ角砂糖を放り込んで、ひとくち。

「おいしい」

ほうっと息を漏らせば一層彼は笑みを深くするのだ。嬉しそうに眩しそうにわたしを見つめて、それから、お食べとわたしの大好きなお店のベリータルトを差し出した。

「今日はわたしのすきなものばかり」

ベリーの甘酸っぱさとクリームのもったりとした甘さがゆっくり巡る。

「しばらく僕のすきなものばかりだったからね」

日に透けるラズベリーの髪を風に揺らせながら、彼はタルトを頬張るわたしをうっとりと見つめていた。
紅茶よりも、タルトよりも、ずっと甘い視線がするすると巻き付く。“わたし”を強請して強制するその眼差しが、じわじわと僕を弱らせる。きっといつか、僕は殺されしまうのだろう、ずっとわたしだけでいるように。

、今日はこの後何をしたい?」

鉄枷の目。
美しい赤と金がきらきらと仄暗い光を湛えている。恍惚としたその瞳が、僕に深い拒絶を見せている。

「征十郎さんと、薔薇園を散歩したい」

僕は貴方と話す機会さえ与えられない。

「そう、じゃあこれを飲んだら行こうか」

彼がすきだと言ってくれたのは確かに“僕”の方だったはずなのに、いつの間にか僕は不要なものになってしまったのか今じゃあ愛されるのは“わたし”だ。
甘い香りを口に含み涙と一緒に呑み込む。わたしはこんなに幸せなのに、なんて痛くて悲しい。もうやめてしまいたい。
わたしも僕も、彼も、全て放り投げて。

rewrite:2021.09.20 | BGM:鏡 / 女王蜂