いつかを数えて


ずぶりと肩に歯を立てられる。
噛み千切られてしまうのではないかと思ってしまう程の容赦ないその力と襲いくる痛みに呻くような声が零れ落ちた。じくじくと熱を持ち始めたそこは、きっととくとくと血が出ているのだろう。
その証拠に征十郎の舌が這い啜る感触がある。ぴちゃりと音を立てながら舐め取られていった血液は、ゆっくりと彼の体内へ入っていくのだ。
ああ、取り込まれていく。くらくらしてしまう程の恍惚と愉悦に口元が綻んだ。



吐息混じりに囁かれた名前にそうっと閉じていた目を開けると、うっとりするような笑みを浮かべた征十郎がすっと顔を寄せてくる。
赤い瞳がきらきらと輝いていて、ひどく綺麗だった。
ひたりと合わせられた唇から彼の熱が伝わる。望まれるがまま唇の合わせ目を解けば案の定がぶりと下唇を強く噛まれた。内側の柔らかな肉が彼の歯で裂かれ、血が溢れ、苦い血液を彼の舌が攫っていく。
僕の血が彼の中に飲み込まれていく。
そうやって、僕のことも飲み込んでくれたらいいのに。そうしてしばらく、満足したのかぬるりと彼の舌は引き抜かれ離れていく。

「もう、いいの」

血の味が口の中に広がっていく。

「まだ」

全然足りないとばかりに薄く笑って零れ出た僕の涙を舐め取った。
するすると下りていった赤い唇が、今度は首筋に歯を立てる。細く息を吐きながら襲う痛みに耐えていれば、くすりと彼が笑った。

「痛い?」
「ん、いたい……」

ざらりとした舌がまた舐め取る。

「っ、ねえ、征十郎」
「なに」
「美味しい……?」

彼の手を握りながら問えば、くすくすまた笑う。

「美味しいよ」

食べてしまいたいくらい、と傷口を抉られる。

「ぁ……、食べて、いいよ」

何もかも、髪の毛一本残さずに全て食べられてしまいたい。けれど彼は甘やかな声でただ言うのだ。

「また今度」

だから僕は、そのいつか来る日を夢見ながら、相も変わらず少しずつ少しずつ彼に取り込まれていくしかない。
ああ、一体いつになるのだろう、僕が彼になれる日は。

rewrite:2021.09.20