色違いの裏と裏
何故こうも上手くいかないのだろうか。
少し先でテツヤたちとじゃれ合う聖司の姿にじりじりと頭の奥が焼き付くにおいを感じる。明滅する視界の中、くっきりと浮かぶのは楽しそうに笑う聖司の顔。
僕の前ではそんな顔、しないくせに。
強く握った手のひらに爪が刺さる。煮え立つのは嫉妬か怒りか、その両方なのかもしれない。
手のひらに突き刺さる爪の鋭さを心の隅で感じながら、ゆっくり笑い声に近付く。僕になんて気付きもせずに涼太と小突き合い、テツヤを撫でまわす彼にどこかが引き攣っていた。
「……赤司君」
水面のような目がすいっと動く。テツヤの言葉に聖司の肩がひくりと跳ねた。
「やあ。ちょっと聖司借りていくね」
上手く笑えただろうか。いや、笑えていないだろう。
涼太の恐怖と心配に強張った表情とテツヤの僅かな怒りが浮かんだ、けれどどこか憐れむような眼差し。どれもが苛立たしくて鬱陶しい。二人の口から何かが飛び出す前にさっさと聖司の手を引き背を向ける。
「あ、赤司、どこ、行くんだよ」
微かに震えた声に混じるのは恐怖と戸惑いと、それから、何だろう。
心臓を握り締める力が増す。痛い、苦しい。何だっていうんだ。
「聖司、お前は誰のものだ?」
理科準備室に半ば無理矢理引き摺りこんで、目の中を覗き込む。不安定に揺れ動き続ける瞳に滲むのは怯えだった。
怯え。
テツヤたちの前ではあんなにも楽しそうに笑い柔く細まっていた目は、僕の前ではただ怯えしか見せない。
「答えろ。お前は誰のものだ?」
歪んだ煌めくその目にはただただ平たい顔をした僕がぼんやりと映っている。
「俺、は」
泣いてしまいそうに喉を引き攣らせて、視線を下げながら「赤司のものだ」とそっと呟く。きゅっと結ばれた唇が悲しい。
どうしてこうも上手くいかない。何故彼は僕だけのものにならないのだろう。何故彼は、僕の前では笑わないのだろう?
煮え立つのは一体何だ。
「なら、言いつけを守れ。言う事を聞かない犬は嫌いだ」
愛だなんてもので美しく作り上げられた皮を剥いでしまえば、残るの一体何なのだろう。
rewrite:2021.09.11