01
※オメガバースの世界で生きてたnot監督生が健やかに生きていく話
※時間軸は一章序盤くらい?
※twstキャラはあだなのみ使用なので、あだなはカタカナ表記推奨



デイヴィス・クルーウェルは目の前の光景に目元を覆い、天を仰いで盛大な溜息を吐いた。


事の始まりは、今年からこのナイトレイヴンカレッジ(以下NRC)の二年生へ編入してきたヤマトという少年のある発言に対する返答である。
防衛魔防の実技授業で他の生徒たちよりも格段に劣る技を出したヤマトへ、同じクラスに所属するハーツラビュル寮生の一人が『お前、魔力も大したことないくせにどんなコネで入ってきたんだよ』と言った。

さて、ここで少し彼についての話をしておこう。
ヤマト、ただしくは工藤大和というその少年は、このツイステッドワンダーランドとは異なる世界で生を受けた人間であるのだが、なんやかんやあれこれあってこのワンダーランドで暮らしている。
なんやかんやあれこれの中身を大まかにいえば、この世界で将来を誓った恋人が出来たためこの世界に永住することになった、である。
その将来の伴侶になる者はレオナ・キングスカラーという、夕焼けの草原という国の第二王子というまあVIPでセレブリティな人物であり、ツイステッドワンダーランド内でも指折りの魔法士養成学校であるNRCで寮長を務めるエリート中のエリート(ただし留年している)だ。玉の輿である。
この世界においては全くの身寄りもなければ身分証明の類も一切無い大和が、どのようにしてNRCへ入学したのか。ここで先のハールラビュル寮生の言葉への返答が出る。

「王族の嫁予定だから」

どんなコネかといえば、夕焼けの草原の王族のコネである。大和と将来を誓ったレオナがあの手この手あらゆる手を使って親族その他周囲へ彼との婚姻を認めさせ、今後の為にという名目でもって自身と同じ学校への入学をねじ込んだのだ。
獣人の自身の伴侶に対する熱量を馬鹿にしてはならない。種族にもよるが、おおむね獣人というものはこれと決めた伴侶の為ならば命も賭するものである。
大和の言葉に一瞬ぽかんとした相手は、すぐに鼻で笑ってその言葉を冗談だと片付けた。大半の者が半信半疑であったが、彼やレオナと同じサバナクロー寮の寮生や、獣人の生徒たちはそれが真実であると知っている。
なんせ、大和にはこれでもかというほどくっきりべったりレオナの“におい”がついているのだ。俺のものです!と爆音で告げてくるようなそのにおいに、分かる者であればまず手出しはしないだろう。それが群れの長たるレオナのものであるのだからなおさらであろう。砂にされること必須だ。
その上、大和は別段弱くはない。サバナクロー寮恒例となっている新入生デスマッチトーナメント(参加希望者のみ)において大和は堂々たる戦いぶりで優勝をもぎ取っている。
そんな人間に手を出したらどうなるか、考えずとも分かるであろう。


大和の「王族の嫁(予定)」発言から三日、場は荒れに荒れていた。
大和を目の敵にしているハーツラビュル寮生の生徒率いる四人グループが何かと言うと彼に突っかかり、暴言を吐き、嫌がらせをしていた。そのどれもに対して大和が特段反応を見せないのがまた彼らの癪に障るのか、日々彼らの行いは過激になっていった。
そして、とうとうその日、事は起こったのである。
放課後、図書室へ一人で向かっていた大和は使われていない空き教室へ引きずり込まれた。
放課後になるとこの辺りはあまり人通りがなくなる。それぞれ皆部活動に精を出しているし、その部室もこの辺りには無く、部活が休みの生徒が図書室に用事でもない限りまず人は通らないのだ。

「あーあー可哀想になあ、お前、これからどうなるか分かる?」

下衆な笑みを浮かべた一人がそう言いながら大和の肩を押した。

「将来の王族と関係持てちゃうとか俺らヤバくね?」
「関係ってお前マジでヤんの?こいつに勃つとかそーとーだな」
「だってこいつなんかエロくね?逆にお前はどこがダメなんだよ」
「乳がねえ」
「それは仕方ない」

中身の全くない会話を交わしながらも四人は無抵抗で大人しくしている大和を埃っぽい床に転がし、ベストのボタンもワイシャツのボタンも外していった。
現れた白い肌はシミひとつなく、触れればもっちりと手に吸い付くようである。女の子の裸にすら触れたことのない男どもは、そのあたたかくてすべすべもっちりとした触感に可憐な少女の柔肌を思い描いてしまい、揃って呻き顔を赤らめた。
大和は決して華奢ではない。レオナや一年下のジャック・ハウルよりは細身ではあるが、同い年のラギー・ブッチよりは逞しく筋肉だってそれなりにある。だがそんなこと、些か愉快になるほど童貞丸出しな男たちにはあまり関係ないようであった。
例えそこそこマッチョの同い年の男のものであろうと、生身のもち肌が持つ威力の前では童貞など成す術も無いのだ。ひたすら心ゆくまで触れるしかない。

「よし」

四人全員が大和の肌に触れ「おお……」「こ、こんなもちもちなもんなの?」とどよめいているところで大和は小さくそう言って数度頷いた。
それから徐に拘束の緩んだ右腕を持ち上げ、

「おごっ」

目の前で鼻息荒く乳を揉んでくるハーツラビュル寮生の鼻柱に拳を打ち込んだ。
そこからはもう大和の独壇場である。
恋人には驚くほど心配性なレオナによってある程度の、護身術という名の喧嘩作法を大和は教え込まれていた。もともと身体を動かすことが好きで、ヤンキー漫画やらバトル漫画やらを読むことも好きであった大和はどんどん教えを吸収し我がものとしていき、今では寮内でトップレベルの強さを誇っている。
そんな大和にとって、さほど喧嘩もしたことのないお坊ちゃまの相手など赤子の手を捻るよりも簡単なことであった。
今までの鬱憤を全てぶつけるように、大和は長い手足を存分に使って相手を甚振っていたが、

「あ、やべ」

男たちの哀れな悲鳴と潰れた呻き声が上がる中、がしゃん、と窓硝子の割れる甲高い音が響き渡った。
攻撃魔法を飛ばしてきた相手へ、ぼこぼこにしている真っ只中であった一番憎き相手のであるハーツラビュル寮生を投げ飛ばしたところ、勢いが着きすぎて窓硝子をぶち破ってしまったのだ。硝子もろとも落ちていく二人に、硝子ってこんな簡単に割れちゃうの?と大和は聊か衝撃を受けていた。
硝子割っちゃったから怒られるかも……とちょっとしょんぼりしながらも教師が来る前にさっさと図書室へ行って帰ろうとドアの方へ歩いて行ったところで、廊下の方からばたばたと足音が聞こえて来た。

「何事だ!」

壊さんばかりの勢いでドアが開けられ、誰かが飛び込んでくる。ぴかぴかの革靴に見るからに触り心地の良さそうなふあふあの毛皮のコート、クルーウェルである。

クルーウェルがここにいたのは偶然だった。図書準備室に仕舞い込んでいた古い実験日誌を取りに来たところ、争うような物音と硝子の割れる音に慌ててこの空き教室までやってきたのだ。
クルーウェルはジャケットもベストも脱がされ、ボタンも外れて全開になったワイシャツ、外れかけたベルトという見るからに襲われた格好の大和に目を剥いた。大和自身やその周囲の事情から、色々とやっかまれるだろうとは思っていたが、新学期早々こんなことが起きるとは思っていなかったのだ。

「おい大丈夫か、……ん?」

大和の晒された肌を隠そうと自慢のコートをその肩へ掛けたところでクルーウェルは気付いた。待って、おかしくない?と。加害者であろう生徒が見当たらないのだ。
何故?と大和の肩越しに教室を覗きクルーウェルは再び目を剥いた。
下着一枚に剥かれた生徒二人があちこちに青痣をつくり、手足を縛られ床に転がされている。床に点々と散らばる服の数がどう考えても二人分のそれではなく、割れた窓硝子と聞こえてくる生徒たちのざわめきとバルガスの声から、クルーウェルは色々と悟ってしまった。
そして冒頭へ戻るのである。

才あるものの劣等

2023.01.23