朝になったら泥々のぐちゃぐちゃ
▼ 宮田司郎
俺が大和に向ける感情は、彼が俺へ向けてくれるものとは全く違う。恋だなんてそんな綺麗なものじゃなく、もっと薄汚れた穢らしい、最早愛とすらも到底呼ぶことの出来ないどろどろとした粘度の高いものを纏っただけのただの執着と欲望だ。
ただこの手の中に彼があり、彼を好きに出来るのがこの世で自分ただ一人なのだということを確信出来ればそれでいいのだ。どんな形であれ、彼を占める全てが俺であればいい。
彼を幸せにするだとか、彼の隣にいたいなんていうささやかで青臭くも美しい感情はとうの昔に死んでしまった。死んで崩れて、そして残ったのがこれだ。
大和は俺を愛してくれている。恐らく心の底から、誇らしくなるほど何の偽りもなく。彼の愛は目が眩むような輝きを持ち強く美しい。
それは彼の素直さがなせるものなのだろう。しかし彼のその美点である素直さが、俺を苦しめるのだ。
大和といると柔らかな真綿に優しく包まれているような心地になれるが、同時に酷く惨めな気分にもなるのだ。彼の曲がることのない目が、愛が、じりじりと奥底を焦がして、何もかもをめちゃくちゃにしてしまう。
「ぁ、っぐ」
だから俺は、彼の首を絞める手から力を抜くことが出来なくなる。
俺は彼を苦しめなければならない。彼といると感じるあの痛みや焦燥と同じ分だけ、彼を痛めつけて苦しめなければいけないのだ。
俺だってこんなこと、好きでやっているわけじゃない。けれどそうでもしないと、腹の底で渦巻く欲望が彼を殺めてしまう。
「苦しいか」
放してしまえばいいのだろう。手を放して、離してしまえばいいのだ。
それが最善だということは当の昔に解りきっていたけれど、俺は大和を手放したりなんてしたくない。彼は誰にも触らせたくない、俺以外触れてはならない宝物なのだ。
「愛してる」
酷く苦しげな顔をしている彼に顔をよせ、酸素を求める唇にそっとキスをおくる。
「おやすみ、大和」
そうしてゆっくりと手を離し、咳き込む彼を残して静かに扉を閉める。
そして錠を下した。これで少しの間は、安心していられる。
rewrite:2022.03.14 | 文字書きの為の言葉パレット(@x_ioroi)「占める・絞める・閉める」