よくある朝に目が覚める


▼ 松野カラ松

俺は多分、大和が好きだった。いや、多分ではない、俺は大和が好きだ。
それは今でも変わらなくて、だから忘れられないのだ。春夏秋冬を幾度も巡り、どんどんと淡く褪せていく記憶の中でも彼だけは、ハッとする程眩い鮮やかな笑みを浮かべている。
見る者の心を一瞬で奪い去ってしまうようなあの笑みは、俺の知る限りいつだって俺にだけ向けられていた。大和は分かりやす過ぎるほどに俺を特別扱いしていて、けれど愚かな俺はそれに気付くことはなかったのだ。
こうして彼と離れ思い出を振り返って初めて、彼が俺を、俺だけを特別視していたのだということを知った。そうしてその時、自分が彼に抱いていた感情もまた、知ったのだ。大和が傍にいるとひどく心地が良くて落ち着くけれど、同時に胸がざわついた。彼が誰かと親しげにしていると胸に小さな空洞があるような寒さを覚えていた。
深く考えることはなかったそれは、彼が俺に向けていたものときっと同種のものだ。そのことに気付いたときのあの遣り切れなさ。
もしあの時、大和が隣にいたときにそのことに気付いて、そうして俺も自分の気持ちに少しでも気付いていれば今もここに彼はいたのかもしれない。ここにいて、あの鮮烈な色を放つ笑みを時折浮かべていたかもしれない。
そう思うと悔やんでも悔やみきれない。
彼は一体どんな思いで俺の隣にいたのだろう。自分の感情にも彼の感情にも何一つ気付くことのなかった俺を、彼はどんな思いで見ていたのだろう。
大和は何も言わなかった。思ったことはすぐに躊躇いなく吐き出していた彼が最後まで言葉にすることはなかったのを考えると、堪らなくなる。
きっと彼は、俺が自分自身で己の感情に気付くのを待っていたのだ。俺の意志で自分を選んでほしかったのだろう。頭の天辺から爪先まで、何もかもを自分のものにするために。大和はそういう男だった。
だが俺は、彼が何度も与えた全てのチャンスを逃したのだ。
俺はもう、彼がどこで何をしているのかも知らない。やっと気付いたというのに。

rewrite:2022.02.23 | 文字書きの為の言葉パレット(@x_ioroi)「春夏秋冬・記憶・爪先」