元々の大和は寝付きがあまり良くなくてすぐに起きるというのに、疲れている時はちょっとやそっとじゃあとんと起きないのだと気付いてしまえば、もう駄目だった。家でのんびりと過ごした日は、ただぎゅっと抱き締めて眠るだけ。でも、水族館に行ったり遊園地に行ったり、外に出掛けてたくさん遊んだ日は、それだけじゃあ終われない。
だって、俺の可愛い可愛い無垢で無知で、それ故に淫らさを漂わせる天使が隣で無防備に眠っているのだ。人形のように温度の無い静謐な寝顔が、少しずつ崩れていくのを一度でも見てしまえば、我慢など利くはずがないのである。
「……大和」
瞼が閉じられて呼吸も心音も穏やかなものになってからしばし、そうっと名前を呼んでみるが返事はない。
平時ならこれだけでぱっと瞼が開くのに、今その瞳は見えない。深く眠っている証拠だ。今日は近くの商店街まで歩いて行って、しばらく近辺を散歩して回ったから相当疲れたのだろう。
ごくん、と喉を鳴らして、そろそろと手を伸ばした。ゆっくりと剥き出しの腕に触れば、しっとりとした肌の感触。彼の肌はどこもすべすべして吸い付くようなのだ。肌の感触を楽しむように撫でながら、そろそろと服の中に手を忍ばせた。薄くて頼りない体に心臓が痛いほど脈打っている。
じっとりと手のひらは汗ばみ始めていた。こうして眠る彼に触れるようになってから今日で五度目、夏休みはあと残り半分。俺はどこまで堕ちていくのだろう。
ほう、と吐き出した息は、異様な熱を孕んでいる。いけないことだとよく分かっているのに、だからこそやりたくなる、触れたくなるのだ。それもこれも、全部全部俺を惑わせる大和が悪い、なんて。
指の先で背骨の隆起をひとつずつ数えるようになぞるだけで、なんだか堪らない気持ちになってしまう。ゆるゆると手を這わせ、余すことなく味わうように触れていく。腰骨に触れる度いつも思う、いつかここを思い切り掴んで好きなように揺さぶってみたい、と。男なら誰しもが持つだろうそういう欲求を大和は相手に抱かせてしまうのだ。男を惑わせる空気を、時折彼は放つ。
ころりと大和の体を優しく転がして、背後からぎゅうっと抱き締めながら項に鼻先を埋めれば、ふんわりと石鹸のにおいがする。石鹸と大和自身の混じった、ぞくぞくして下腹部が重い熱を孕んでいくようなにおい。
ぺったんこな腹をゆっくりと撫でて、片手だけするすると上へ手を滑らせれば手のひらにぽつりと粒が触れた。まだ何も知らない淡い色合いのそこを愛でるよう、指先で乳輪を優しく撫でる。
大和の呼吸はまだ穏やかなままで変わらない。しばらく柔らかなタッチで周囲に触れてから、そっと小さな乳頭に触れた。男でも目一杯愛でればそこは立派な性感帯となるのだそうだ。
項に唇で触れ、少しだけ吸い付きながら手だけをゆるゆると動かせる。腹を撫でたままだったもう片方の手をハーフパンツの中へと忍び込ませていった。今日の大和は、シンプルな紺色のボクサーパンツを履いている。真っ白な肌とのコントラストが妙にいやらしくて、すっかり目に焼き付いてしまっていた。
ゴムと肌の間に指先を差し込みくるりと周囲を撫でてから、ゆっくりと手を差し込んだ。じっとりと手が汗ばんでいる。まだ薄いふわりとした陰毛を撫でてから、未発達なそこへとゆっくりと触れていく。柔く、何の反応を示していないそこを手の中で優しく揉むようにしていれば、ひくん、と大和の足が動いた。小さな吐息がひとつ落ちて、もぞりと身じろぐ。
「ん……は、ぁ、あ」
次第に手の動きを激しくしていく。揉みこむような動きから扱くようなものに変わる頃には、大和の息もはふはふと忙しなくなっていた。
薄く開かれた薔薇の唇から零れる吐息交じりの甘やかな声に、興奮で頭が鈍く痛む。自分の吐く息もどんどん荒くなるし、触れてもいない自身は痛いほど勃起していた。
「大和、大和……っ」
必死に抑えて小さくした熱のこもりドロリとした声で何度も何度も名前を呼びながら、柔らかな小さな尻に向かって犬のように腰を振り擦り付ける。布越しに伝わるふにゃりとした肉の感触に、パンツの中がぐちゃぐちゃになっていくのが分かった。
手の中の大和自身もとろとろと蜜を零ししとどに濡れている。けれども彼は目覚めない。こんなんでほんとのほんとに大丈夫なのかな、学校でなんかされたりしてないかな、なんて絶賛ナニかしている最中の俺が思うのもあれだが、心配になってしまう。
「あ、ぁ、……」
びくびくと小さな体が震え、力が入っていくのが分かる。丸くなっていく背にぴったりとくっついたまま、かき上げる手の速度をあげようとしたとき、不意に小さな唸り声が混じった。
その声にハッとして、手を引き身体を離す。
大和は、んん、ん~……と唸りながらもぞもぞと体を動かしていた。それは目を覚ます前、彼がよくやるものだ。ぐずるようなその声に、びしょびしょな手もそのままにぴったりと動きを止めて様子を伺う。
「……大和?」
しかし大和が起きることはなく、ころりとこちらに寝がえりを打ったと思ったらまた穏やかな寝息を立てている。ベッドのすぐ傍のカーテンは、大和の寝顔が見えなくなるのが嫌でいつも開けっぱなしにしていた。そこから入る月明かりが、天蓋から垂れるレースを通してぼんやりと彼の顔を照らしている。
ああ、ああ、俺の可愛い、無垢な天使よ。
唾液で濡れた唇の淡く、けれど途方もない淫らな輝き、じんわりと赤くなっている頬から目元、汗ばみ独特の色香を放つ細い首筋まで、全てが俺の目の前に曝け出されていた。痛いほど張り詰めていた自身は、いまだどくどくと脈打っている。今すぐにでもその薄く開かれた柔らかな唇に突き立て、思うままに腰を振ってみたい。華奢な腰を掴んで、その柔らかな未知の領域に捻じ込んで、小さな尻の感触を直に感じたい。そう思わずにはいられないのだ。
俺は一体、あとどれだけ我慢すればいいのだろう。
「起きて、大和」
息苦し気な呼吸をする大和のそこは、まだ俺同様張り詰めたままだ。今回でこうして眠る彼に手を出すのも五回目だけれど、ここまで触れられたのは初めてだったな、とぼんやりと思う。
最初はただ大和の柔くてしっとりとした肌に触れられるだけでよかった。それだけで満ち足りて、堪らない気持ちになった。それがどんどんと欲が嵩み、もう少し、もう少し、と意識が無いのをいいことに触れ続けて、今じゃあ射精寸前まで追い詰めるありさまだ。
これを知ったら大和は何ていうかな。気持ち悪いって思うのかな。でも、大和は絶対に俺が好きだ。俺が触れるたびに頬を薔薇色にしてあの花開く可憐な笑みを見せてくれるのだから。無防備に寄り添ってきて、無邪気な笑顔だって見せてくれるようにもなった。これで好きじゃないわけがない。
ああ、俺はあとどれだけ待てばいいのだろう。
「お兄ちゃん、もう我慢できないよぉ、大和……」
これ以上触れてしまえばもう行き着くとこまで行ってしまう、そう思えばそれ以上大和には触れられなかった。俺だって初めてのときぐらいは、意識のある状態で臨みたいのだ。
これだけのことをしておいてとも思うけれど、初体験なんていう大和にとっても大事なものを俺が勝手に進めてしまうのは嫌だった。
俺は、大和に求められたいのだ。心の底から、何もかもを。
* * *
結局それから大和には触れられず、なんとか自分を鎮めたけれども眠れないままに夜が明けてしまった。寝不足なまま眠る大和を見ていれば、ふとぐずるような唸り声を零しながらもぞもぞと動き出した。そろそろ起きる時間か、と差し込む日差しに思っていると、大和の動きが不自然に止まる。
そろりと開かれた目が、恐る恐る俺を見る。
「おはよぉ、大和」
「ぁ、……おはよ、う、おそまつおにいさん」
その顔はじわりと赤く染まっている。それが暑さだけじゃないなんて分かっていた。
昨日、限界まで追い詰めてそのまま放置してしまった彼自身は、時間と共に少し落ち着いていたけれど、緩く兆したままだった。朝勃ちなんて男の生理現象のひとつだけれど、大和はまだ経験したことないのかな。そんな性的な話はまだ一切していないから、俺は彼がいつ精通したのか、そもそも精通しているのかどうかすら知らない。
大和は赤い顔のまま、困惑したようにもぞもぞとしている。どうすればいいのか分からない、とでも言いたげな仕草だ。
「どしたの」
「……なんでもない」
タオルケットをぎゅっと握りしめ起き上がることもしない大和に、笑みが零れそうになった。
「なあに、今日は起きない日なの?このままベッドでごろごろする?」
「ううん、起きる、けど……」
「けど?」
「もうちょっと寝る」
「そっか、じゃあ兄ちゃんちょっと朝飯の準備しとくな」
「うん……」
ぎゅっと握ったタオルケットを頭からかぶり小さくなってしまった大和を、タオルケットの上から撫でて寝室をあとにする。あのままぐだぐだ絡んで困らせてみたかったけれど、あっち行ってなんて言われたら死ぬ。
大和は一人でどうするのだろう。落ち着くまで我慢するのかな、それともあの細い指で恐る恐る握りしめて、なんとかしようとするのだろうか。泣きそうな声を零しながら、必死に息をして、細い喉がぐっとそらされ足の指がぎゅっと丸まって、それから、それから。
怯えた顔で、しかし淫らに喘ぐ様はきっとこの世の何よりも煽情的で背徳に満ちている。そうして天使の羽根も抜け落ちてしまえばいい。そうすれば彼は何処にも行けず、ずっとずうっと俺の手元にあるのだから。
やわらかい手つきで奪ってくれ
rewrite:2022.03.24