演練場の一角にある休憩所の更に一角。演練終了後、俺は話を聞きたくてそこに野茨さんたちを誘ったのだが。「主、ほら、あーん」にこにこご機嫌に笑うへし切長谷部の差し出すスプーンには、パフェの天辺から掬われたチョコレートのかかった苺と生クリーム。それを何の躊躇いもなく口に含み、美味いと頷くのは隣に座っていた彼の主である野茨さんである。俺たちは一体何を見せられているのか。俺の隣でケーキをつついていた加州は向かいの席の光景にしょっぱい顔をしている。「仲良いんですね……」絞り出すような声になってしまったそれに、野茨さんは一瞬きょとんとして、ああと頷いた。「そりゃあ俺、長谷部のおよめさんだから」「あ!?」何故こうも次々と衝撃の事実的事柄が出てくる?「嫁って……まさか」幾分輝きの治まっている長谷部の隣に座り、それでも時折眩しそうに目を瞬かせていた日本号が眉を寄せ長谷部を横目で睨む。「同意を得て、だ。その辺の野蛮なモノと一緒にするな」じろりと睨み返すへし切長谷部の眼光の鋭さに、睨まれて無いはずの俺が一番ビビってしまう。「だから君から長谷部君の気を感じるのか」何かを納得したように頷く石切丸さんだが俺は何も分かっていない。誰か説明してくれという顔をしていたのだろう、加州が「神嫁だよ」とこっそり教えてくれた。神嫁なんてヤバさの極み的なヤツだが同意を得ているそうだし、野茨さんも別段普通の顔をしている。「それって、野茨さんのとこに長谷部さんしかいないのに関係してたり……?」「あ~、関係なくはないけど……俺、今の本丸が三つ目なんだよ。前の二つは引継ぎ本丸で、まあ色々あって長谷部だけでいいなって。出陣も長谷部がいれば熟せるし、遠征も二人で行けば割と平気」「遠征も行くんですかっ」出陣もすると言っていたし、所謂戦闘系審神者と言われる部類なのだろう。「出陣って、やっぱり俺たちば振るうと?」「そう、長谷部振り回してるよ」「はわ~!羨ましか~!」う、こっちを見ないでくれ博多よ……俺は戦闘系ではないのだ。それからしばし『人に使われる感覚』の話で場は大いに盛り上がることとなった。

理解出来なくても良いことがある

rewrite:2022.05.09 | やっぱり人に使われて振るわれたい刀剣たち