審神者として籍を置いている者すべてに任務というものは与えられる。次々現れる時間遡行軍と戦い、遠征をし、時には演習場へ赴き模擬戦を行ったり情報共有や戦法などを話し合い切磋琢磨すること。それが審神者の仕事、任務である。刀剣が一振りしかいなかろうが、特別任務を担っていようが、審神者である以上皆と同じく任務を熟さなければならない。「ほら、主、そろそろ支度をしないと」「んん~、行きたくない……」身支度を整え、戦装束を身に纏った長谷部は日向に寝転ぶ主の目の前に膝をついた。「主、昨日も一昨日もそう言ってお休みしたでしょう?また担当が来ますよ」「美味しいもの貰えるな」「……こほん。いいですか、主。俺は、ここにはなるべく他の人間を入れたくはないのです。ここは、この本丸は貴方と俺、二人だけの場所なんです。言うなればそう、愛の巣……最早神域!そんなところに、薄汚い余所者なぞ……!」熱くなり始めた長谷部に呼応するように、帯刀された彼の本体がカタカタと音を立てる。くっ、と拳を握り歯を食い縛る長谷部に、主は朗らかに笑った。「そうだな、ここは俺と長谷部の愛の巣だもんな。他人に邪魔されたくないよなぁ」歌うようにそう言った男の上機嫌な口元に長谷部もにこにこと笑みを零した。そうして身を起こした審神者の衣服を慣れた手付きで脱がせ、既に横に用意していた戦装束へと着替えさせていく。長谷部の主の戦装束は司祭平服、カソックである。水干や直衣、狩衣などの装束や軍服が一般的な中、カソックというのは珍しくまず見かけることがない。特段動き易いという訳でもなければキリスト教徒でもない主がこの服を身に纏うのは、至極単純な理由から。長谷部とお揃いが着たい、ただそれだけである。初めてそれを告げられた時、長谷部は感激のあまり一晩泣いた。「ん、ありがとう長谷部」主のカソック姿はいつ見ても禁欲的故の淫靡さがあり、今すぐに着せたばかりの衣装を剥ぎ取りたくなってしまう。しかしそれは、演習から戻ってから。「行くか、長谷部」今はまず、担当を来させない為に任務を熟さねば。
満ちたふたつの手をとって
rewrite:2022.05.09