それは何度見ても不思議な心地になる光景であった。審神者の振り上げた金槌が麻袋へ打ち付けられる度、カーン、と澄んだ高い音が鳴るのだ。あのぐちゃぐちゃでどろどろとしたものからそんな音が出るのか、とも思うがもとは自分と同じ刀だ、そんな音くらいなるのかもしれない。長谷部が甲高い音と共に審神者の周囲を舞うキラキラとした光の粒子に見惚れている内に“儀式”は終盤を迎えていた。煌めきながら審神者の周りを漂っていた粒子がパッと散り散りに消え見えなくなる。途端、金槌を打ち付けられた麻袋がぐちゃりと不快な音を立て出し、次第に青白い炎に包まれていった。「安らかな眠りにつかれますよう心よりお祈り申し上げます」決してそうならないことを知っている冷ややかな声が辺りに響き渡る。麻袋は燃え尽き、燃え滓すら残らない。ただどす黒い染みのような痕跡だけがそこに残り、それすらもいずれ消えてなくなるだろう。「は~疲れた」立ち上がった審神者の足元に付いた土汚れを払い落としてやり、その手から金槌を受け取った。それから手に切り傷や穢れなどが無いか見分し、その瞳がしっかりと自分を見つめているかを確認する。そうしてようやく長谷部は「お疲れ様でした」と微笑んだ。「うん。長谷部、早いけどお風呂入ろ」「ええ、そうしましょうか」縁側から部屋の中へと入る前にもう一度、審神者の全身を軽く手で払う。うっかり“不要なモノ”がついていないとも限らない。「ああ、主、あそこはどうしますか」「色が戻ったらまた埋める。もう場所も無いし」「では来月くらいですかね」「ん~、そうだな。そんくらいかも」真っ青な紫陽花が咲き誇る一角をちらりと見やり、「札でも埋めとくか」と審神者は冗談交じりに行った。「また腐りますよ」「前のは札が悪かった」「札を埋めるくらいなら主の書き損じた紙を埋めたほうがよっぽど効果がありそうですけど」「確かに……やってみる?」「そうですね、でももう明日にしましょう」
火も声もいびつな透明
2024.05.05