昨夜の雨が嘘のように空は美しく晴れ渡っている。風も心地良く辺りの空気は澄み渡り清々しいというのに、その一角だけはじっとりと湿り重く濁っていた。長谷部は何度目になるか分からない溜め息をまた吐いて、それから少々錆びてきたシャベルを手に取った。「……」ザク、ザク、と規則正しいリズムで青い紫陽花の根元を掘り起こしていく。一定の深さを越えたあたりで唐突に土はぐじゅぐじゅと水分を多く含んだものへと変わり、その感触に長谷部はうんざりとした顔でまた溜め息を吐いた。何度やってもこの作業は気分が悪くなる。「はあ……」ようやく目当てのモノを掘りあて、専用の手袋を二重にはめた手でそれを引っ張り上げるころには長谷部の顔色は幾分か青褪めたものになっていた。ずっしりと重い、どす黒く濡れた麻袋を引きあげ地面に転がせば、ぐちゃりと嫌な音を立つ。手早く穴を埋め直しきつく結ばれた麻袋の口元を握ると、半ば引き摺るように長谷部はそれを庭の端へと運んで行く。ずっしりと重たいそれは時折蠢き、その度にどろどろとしたものを周囲へまき散らしていた。「主、ご用意いたしました」麻袋を運び終えると長谷部は縁側から中で準備をしているであろう主へと声をかけた。返事と共にすぐに現れた審神者は彼の正装であるカソックを身に纏っている。自身の戦装束に似たデザインのそれを纏った主の姿に、いつ見ても長谷部はうっとり見惚れてしまうのだ。「今回何振りだったっけ」「三振りです」縁側に立ち、長谷部のやや青白い頬に眉を寄せた審神者は庭の隅を一瞥する。「長谷部、きつかったら部屋で休んでて良いよ」「いいえ、大丈夫です」「そう?無理はすんなよ」そう言い微笑みながら審神者は長谷部の額にじっとりと浮いた汗を優しく拭った。「じゃあやるか」「はい」「金槌どこだっけ」「ここに」縁側から庭先に降り立った審神者は長谷部から大振りの金槌を受け取ると、庭の端に置かれた麻袋の前へ膝をついた。一度深呼吸してから手にした金槌を振り上げ、躊躇いなく麻袋の真ん中へと振り下ろす。
晦の繭
2024.05.05