それからというもの毎年政府本部内の病院か、各国の政府支部内にある医務室、または料金が発生してしまうものの医療部に出張を依頼し任意の場所、そのどこかで審神者は決められた期間内に予防接種を打つことが義務付けられた。
「さあ主、大丈夫です、長谷部がついていますからね」
へし切長谷部は、困惑気味に目線をうろつかせる己が主を椅子へと座らせた。
「待って、長谷部待って、それ何?何の注射?」
不信感も顕わに目の前に座る白衣を着た政府の人間を見て、それから背後の長谷部を仰ぎ見る。
どうにも事情の分かっていない審神者に、派遣されてきた医療部の男はおや?と首を傾げた。派遣を依頼したのはそちらなのだから、これが何の注射であるか普通であれば分かっているはずだ。なのに分からないとはどういうことなのか。
疑問を抱きながらも、ただの予防接種ですよと言うために口を開いた男へ、長谷部の頗る冷たい視線が突き刺さった。黙って打て―――そう言っている目だ。
男は全くもって現状を理解できないまま恐怖に震えそうになる手を抑え、審神者の腕をとった。
「待って待って」
「大丈夫ですよ、主」
「だからなにが?その注射の中身は?」
ぐいぐいと腕を引き、子供のようにいやいやと首を振る審神者を見つめる長谷部の眼差しは、やけに甘い。どこかうっとりとしている。
「まって、まって、それ何?平気?死なない?」
「大丈夫です、俺が主に毒を打ち込ませると思いますか?」
「思わない。思わないけど」
「ほら、彼も次の仕事がありますからね、待たせてはいけませんよ。大丈夫です、痛くないですから、ね?」
「うん……」
「ではお願いします」
頷かされている、と思いつつも、男は黙って注射を打った。
眉間に皺を寄せながらも静かに予防接種を受ける審神者の頭を、長谷部は小さな子を愛でるように撫でていた。
わたしのかわいい仔猫
rewrite:2022.05.09 | Twitterのかわいいあの子診断が元ネタ。主に縋られるのが大好きで、全幅の信頼を寄せられていると実感するのが好きな長谷部氏です。後日インフルの予防接種だったと知った審神者に、言えよ!とどつかれる長谷部氏です。