長谷部と彼の主の間には、いくつか絶対に守らなければならないと定めた決まり事(寝るときは必ず一緒の布団で、食事やお八つは絶対に二人で、等々)が存在する。
湯浴みを共にするということもその中のひとつであった。やんごとなき事情がない限り共に入浴すること、そう定めると言い出したのは長谷部だ。

「さあ主、湯浴みの時間ですよ」
「ん。あ、この前買ったやつ」
「入れてありますよ」
「柚子?」
「ええ、柚子です」

弾むような足取りで風呂場へと向かったその背を、ふふ、と笑みを零しながら長谷部は追いかけた。

「だいぶん、薄くなりましたね」

凛と真っ直ぐ伸びる背の泡を湯で流しながら、そう声を掛け目の前の背に触れた。
この本丸にやってきた当初、この体のあちこちに生々しく傷が残されていた。刀傷であったり、火傷のようなものであったり、傷の種類も様々であればその大きさも様々だ。一番大きい背を斜めに横切る刀傷は、ここに来る直前に付けられたものであった。

「そりゃあ、毎日お前が触るから」

とろりと蕩けた柔らかな声で言う主に長谷部はそうですね、と薄く笑い水に濡れた肌へ唇を寄せた。

「っん、……は、ぁ」

湯で温まり桃や薔薇のように色付いた傷の一つひとつを長谷部は愛おしむ様に唇で触れ、舐め上げる。仄かな神気を滲ませた舌や唇で、余すところなく、傷跡なぞ残さぬとばかりに。
唇や舌が触れる度、しなやかな背がひくりと震え、甘やかな声が零れ落ちていった。

「ぁっ、はせべ、」

力の抜けた肢体が寄り掛かってくるのを受け止め、宥める様にその肩を撫でながら長谷部は主へ、

「さあ、立ってください」

と声を掛けた。

「も、いい、立てない……」
「だめですよ。まだほら、こちらが終わってません」

しどけなく投げ出されていた腿の柔らかな内側を撫で、赤く染まった耳を食む。

「約束したでしょう、主」

湯浴みは共に。そう定めた時、長谷部は主にその体に散る傷跡を治癒させてほしいと頼んだ。己の神気でもって、その痕を消させてくれと。誰だって己のものに他人の跡があるのは嫌であろう。
だから長谷部は今日も愛を込めて主を綺麗にするのだ。

湯船に満ちるしずけさ

rewrite:2022.05.09