※元ブラ本設定


俺だって、俺だけに尽くしてくれる素敵で無敵な神様がほしい。主従関係とかそこまで気にはしない。俺と一緒に戦ってくれて、俺と一緒にご飯を食べてくれて、俺と一緒に話して笑ってくれるなら、別にどんな奴だって構いやしない。
もうやってられない、こんなとこ、一人で。
こんなとこに訳も分からずぶち込まれる前まで、ずっと周りに誰かがいてわあわあ騒いで遊んで、時たま一人で静かに過ごす生活を送ってきた。俺にとっては今までそれが当たり前だったのだ。
それが、こんな、無いものみたいにされてだあれも相手をしてくれない、誰とも口を利かない、戦場の敵たちよりも顔を合わせないような生活、耐えられるわけがない。普通に寂しいし、悲しいし、精神が死んでいく。
今までもしかしたらに期待して色々やってみたけど、もう無理。一年だ、もう我慢とかしてられない。別に切り掛かられたって避ければ良いし、死んでしまったとしてもいい。どうせこのままここにいたって、いずれ頭がおかしくなって死ぬ。それならもう、好きにしていいだろう。
じわじわと滲んでくる涙を拭う余裕もなく、こっそりと倉庫から持ち出してきた資材たちとこっそり隠し持って来た手伝い札を鍛刀部屋の小人さんたちに手渡し、祈るように手を組み霊力を流し込む。
どうか、俺の味方になってくれて、俺のオトモダチになってくれる、素敵で無敵な神様が来てくれますように。
狐なんだか何なんだかよく分からんモフモフしてるだけで大して役にも立たないやつに、ここの刀剣に主と認められるまで勝手に刀を作ってはいけないだのなんだの言われていたが、知ったことではない。刀剣に主と認められてようが無かろうが、そもそも、この本丸の主は俺なのだ。つまりここのルールは俺。
なら、神様もひとりくらい呼んだって全然構いやしないだろう。これで何か言うのならば、もう全面戦争だ。全員刀解か、この本丸ごとどっかの誰かにでも譲渡すればいい。

チン、という軽やかな音と共に、ふわりと柔らかな風が頬を撫でる。そろりと目を開ければ、舞い散る桜の向こう、柔らかな煤色の髪と美しく輝く淡い青紫の瞳が見えた。
一見冷たげにも見えるその顔が、ゆうるりと綻び優し気な笑みを浮かべる。

「へし切長谷部、と言います。主命とあらば、何でもこなしますよ」

随分と久しぶりに他人の笑顔を見た気がする。たったこれだけで、じんわりと目の奥が熱くなり、鼻の奥がつきつきと痛み出した。
ああ彼が、俺だけの素敵で、無敵で、味方でオトモダチの神様になってくれたら、どんなに良いか。

「これからよろしく、長谷部。来てくれてとても嬉しい。けど、お前に幾つか話しておかないといけないことがある」

もしかするとこの神様も、俺とは口を利かなくなるかもしれない。
そう思えば、彼を見て舞い上がった気持ちが少しずつ泥濘に沈むように消えていく。そうすれば必然的に声も低くなり、目の前に立つへし切長谷部と名乗った神様の目が一瞬、不安に揺れた。

「ここに俺を主とするものはいない。お前を仲間と認識するものもいるかは分からない。出会い頭に切り掛かってくる可能性は高いし、不意打ちで仕掛けてくるものもいるかもしれない。とても過ごしづらい本丸だし、不便も多いと思う。それでも、お前は俺と一緒に、この本丸で暮らしてくれるか?」

俺の言葉を聞くうちに、長谷部の美しい瞳が剣呑な光に満ちていくのが分かった。彼は何かに怒っているような顔をしている。
もしかすると、そんな場所に呼び出されたことを怒っているのかもしれない。何も知らないうちに名乗りをあげてしまったことを後悔しているのだろうか。

「……俺は、貴方のその清流の如き霊力に惹かれ、その胸の内の願いを聞き、是非叶えたいと思いここに参りました。貴方に惹かれ、貴方の元へ行こうとした数多の分霊たちを死の物狂いで押しのけ、貴方の元まで降りたのです。俺の主は、貴方だけです。俺は、貴方だけに尽くす、貴方だけの刀なのです。貴方と共に居られるのならば、そこが何処であっても構いはしません」
「俺だけの……?ほ、ほんとにっ?俺と一緒にご飯食べたり、話をしたりしてくれる?」
「ええ、ええ、是非、こちらからお願い申し上げたいほどです」
「は、長谷部~!」

あまりの嬉しさに、長谷部に飛びついてしまったけれど、長谷部は避けたりせずに受け止めてくれる。少し驚いたようだけれど、すぐにそうっと俺を抱き締め返してくれた。
ここに来てからもう長い間、他人と触れ合うどころか会話すらままならなかった俺にはそれはあまりもあたたかいもので、なんだか泣きたくなってしまう。
しかし流石に泣いてしまうのは情けなさ過ぎる。俺はこの美しい神様の主になるのだ。ならば主としてしっかりとしなければ、と離れがたいあたたかさから抜けだした。

「主、これからはこの長谷部が、貴方をお守りいたします。なのでどうか、俺をお傍に置いてくださいね」

まるで労わるように優しく微笑んだ長谷部は、俺だけの素敵で無敵な神様なのだ。それが堪らなく嬉しくて、随分と久しぶりに、俺は心から笑った。

幸福を願い尽くして

2018.04.08 | 初めての長谷部くんです。