トレイ・クローバーの回想


あの時の衝撃は今でもよくよく覚えている。今でも、つい数秒前のことのように鮮明に思い出せる。開かれた棺の中から出てきたのが“二人”だったということにも驚いたし、その“彼ら”が全く魔力をもたないことにも驚いた。
けれど何よりも驚いたのは、彼らの持つ恐ろしいまでの美しさだ。
リドルの艶やかな赤髪とも違う、鮮やかで濡れたような輝きを放つ赤い髪と真紅の瞳。透き通った肌に淡い薔薇の唇。神が心を込めて形作ったような完璧さはさながら人形のようにも思え、けれどその瞳に宿る輝きが彼らが生きているものであることを証明していた。
自分たちと同じように生きているものだと分かっても、離れ離れになることを嫌うようにぴたりと寄り添った彼らはまるでふたつでひとつの生き物のようで、自分たちとは違うように感じたこともよく覚えている。
自分たちと同じ“人間”であると分かっている今でもなお、何か違う次元の存在のように思える時があった。それは俺だけではない。

『二人は本当に人間なのだろうか』

そう時折誰かが言っているのを聞くのだ。その言葉を聞くたび、俺は彼らを初めて見たあの瞬間を思い出す。
彼らが現れた瞬間からあの場は彼らの支配する場となっていた。誰もが二人の一挙一動に注目し、誰も何も発さず、発せず、ただ二人を見つめていた。
彼らは互いの顔を見合わせ言葉もなく何かを伝えあい、頷き、それから周囲にいる生徒を見まわして、微かに笑んだ。
あの笑みを見た時の衝撃はうまく言葉に出来ない。何度思い出しても、いつもあの時感じたものを表現出来た試しがない。
きっとそれは俺だけではないだろう、あの時誰もが言葉にできない衝撃を受けたはずだ。敢えて何かに無理やり当てはめ言葉にするとしたら、あの時俺たちが見た笑みは、神の存在を思わせるもんだった、とでも言おうか。
あの瞬間、少なくとも俺は、神や天使といった居るのか居ないのか到底把握することは出来ない存在を見たような気がしたのだ。

「おはようございます、トレイ先輩」

二人分の声に振り返れば今日も仲良く寄り添った監督生の二人が美しい笑みを湛えて立っていた。

2022.08.11