夜を解剖する


ふと名前を呼ばれた気がして立ち止まった。振り返って見るけれど、薄暗い路には転々と外灯が灯っているだけで誰も見当たらない。

「征十郎?」

くん、と繋いだ手を引っ張られて視線を大和へと戻す。心配そうに眉を寄せて彼に何でもない、と首を振った。

「ほんとに?」
「ああ。ほら、早く帰ろう」

何か言いたげな大和の手を今度はこちらが引いて歩き出す。きっと気のせいだろう、と先ほどのことを忘れるように緩く頭を振って会話へと戻った。
なんてことないくだらない日常会話も彼とのものになると途端に大切なものになる。彼の見ているものを共有できるこの時間が、俺はたまらなくすきだった。
楽しそうに笑いながらぽんぽんと言葉を飛ばす大和の横顔をちらりと見やった。くるくると感情のままに変わる表情を可愛い、なんて思っていれば、

「―――」

ふいにまた名前を呼ばれた気がした。ぞわりと悪寒が背を這う。

「あ、」

知っている。その感覚は何度も何度も体験したことがあるものだ。
はっと振り返った先には不自然なほど黒いスーツを着た誰かが佇んでいた。こちらに背を向けたその“何か”は微動だにしない。
す、と体温が下がっていく。体が震え出し、大和と繋いだ手に上手く力が入らない。息が詰まって苦しい。いつもそうだ、あれを見ると絞めつけられたように息が出来なくなる。

「大丈夫だよ征十郎」

ぎゅっと強く俺の手を握りそう言う大和はいっそ場違いなほど穏やかな顔をしている。

「征十郎は俺が守るから、絶対大丈夫」

いつだって心のままに煌めいている瞳が、今は冴え冴えと、まるでそれ自体が発光しているように不思議な輝きを放っているように見えた。

「多分家まで憑いてくるから今日は泊まる」

少し速足で歩く大和の言葉にまたゾッと背筋が冷える。振り返ることなど当然できない。

「時々様子が変だったのは“ああいうの”のせいだったんだな」

ちらりと後ろを見て「俺のもんに手出したらどうなるか、解らせてやろう」そう言って笑うその顔は、相手が哀れになるほど自信に満ち満ちていた。

2025.04.21 | 邪悪にぐるぐるしてないタイプの正統派な光属性寺生まれさん