獣の瞳で相対


どこか遠くから聞いたことのあるようなクラシック音楽が聞こえてくる。二人掛けのテーブルで、向かいには黒いネクタイに黒いワイシャツという喪服じみた全身真っ黒い格好の赤司が座っていて、その前には目玉焼きが乗せられた皿が一つ、置かれていた。
俺の前にも一皿、置かれている。

「さあ、食べようか」

美しい顔でそう微笑んで赤司はフォークとナイフを手に取る。どことなく頭の中が霞がかっているような、夢現の狭間を漂うような、思考回路の動きが鈍くなっている俺は何も言わずにただぼんやりとそれを見つめていた。
薄桃色に染まる半熟の黄身にナイフの先が沈む。すうっと刃先が動かされた先から、とろとろと赤味の強い黄色が溢れ出した。ただの目玉焼きのように思っていたけれど、その黄身がどこかきらきらと光る粒子を含んでいるように見える。
赤司は柔く笑んだまま白身の端を切り取って、黄身を纏わせ口に含んだ。とろりとした黄身が垂れ落ち彼の唇を汚して、それが偏光色のような煌きを放っている。
それがなんとも官能的でうっとりと見つめてしまった。

「食べないのかい?」

そう俺に言いながら真っ赤な舌で唇を汚す黄身を舐め取り、きゅうっとチェシャ猫のように目を細める。赤司らしくないその仕草に違和感を覚えた。

「これ……なんの卵なんだ」

また一口、卵を頬張る赤司に問う。再度べろり、と唇に纏わりつく黄身を舐めた赤司が、

「天使の卵だよ」

とうっそりと笑った。
いつの間にか赤司の前の皿は綺麗になっており脇に避けられている。代わりとばかりに白く発光する卵の乗せられたエッグスタンドが置かれていた。

「食べてごらん、とても美味しいよ」

笑う赤司は慣れた手つきで卵の上部を切り開け、スプーンで中身を掬った。

「なかなか手に入らないんだよ。あまり捕り過ぎると争いになるから」

その卵もまた半熟なのだろう、とろりとした赤っぽい煌く黄身が白身と混じってスプーンに乗せられていた。

「まあ、争いになったところで天使如きに負けはしないけどね」

薄く笑んだ赤司のその背に、蝙蝠のような大きな羽が一瞬、見えた気がした。

rewrite:2021.12.02 | 半熟卵食べる赤司くんはえっちだなって話。