工藤大和は肉しか食べない。それは豚でも鹿でも人でもどんな肉でも構わず、調理済みでも生でも関係なく食べる。まるで獣だ。彼は肉以外のものを口にすることは出来ない。食べると直ちに嘔吐し、丸一日不調となる。その量はほんの少しでも駄目なようで、以前少しだけ玉ねぎを混ぜたハンバーグを食べさせてみたら見事に吐いていた。妙な体だと思う。どうなっているのか気にならないといえば嘘になるが、研究したいという程でもない。「おかえり」大和は俺が帰るといつも玄関まで迎えに来てくれて、これが結構嬉しいものなのである。「司郎、ステーキ食べたい」彼に会うまではあまり自炊をする方ではなかったのに、この男が俺の料理を食べたがるから今ではほぼ毎日何かしら作るようになった。大和の方が俺よりも料理の腕前は格段に上なのに彼は俺が作ったものを食べたがる。いつも玄関まで出迎えに来てはこうして夕飯のリクエストをし、作れと雰囲気で言ってくるのだ。彼は肉ならば何でも食べるが、中でもステーキを好む。それもブルーレアのような血の滴る、ほとんど生と言ってもいいようなもの。ここで俺がステーキを作らなければきっと彼は生で食べるのだろう、いつもそうだ、仕事や疲れていて食事を用意できないときの大和の夕飯は大抵生肉だ。全く気持ち悪いことこの上ないのだけれど、一度だけ、彼が本当に血の滴る生肉を食らっているのを見たことがある。まだ出会って間もない頃、肉なら何でも食べると言うから冗談で地下に転がる死体を食べてもいいと言ったら彼は本当に食べてしまった。俺から奪ったメスで、やけに慣れた様子で皮を剥ぎ何の躊躇いもなく元は人だったものを口にする彼は酷く不気味で、しかしゾッとする程美しくもあった。口の端から血を垂らす彼にいつか自分もああやって食べられてしまうのではないかという恐怖を感じ、吐き気を覚えた。だがそれもまた良しとどこかで思っている自分もいたのだ。この男を構成する一部になるのも悪くないなんて、俺も相当気持ちが悪い。
rewrite:2022.03.14