最近、黄瀬涼太がやたらと絡んでくる。朝の挨拶とともに頭を撫でてきたり、一緒に昼ご飯食べようと言ってきたり、部活見ていかないかと誘ってきたり。授業中にふと視線を感じて振り返ってみたらばっちり目が合うなんてのもよくある。決まってその後黄瀬涼太はにっこりととびっきり眩い顔で笑う。別にどきどきなんてしない。普通に怖い。黄瀬涼太はそのやたらめったら無駄に整ったご尊顔のおかげで大変おモテになる。非常に女子に人気だ。いつもきらきら輝くような笑顔が素敵、とか、あの長い睫毛に縁どられた涼しげな目元がたまらない、とかよく聞くけど、俺はそれのどこが素敵でどうたまらないのかわからない。普通に怖い。陽キャ怖すぎてマジで無理。にこにこお喋りしてるくせに急に真顔に戻ったり、時々何考えてるか分からない目でじっと見てくるのとかもうホントの本気に無理の極み。ついでに高いその背も怖い。圧迫感と威圧感が凄いのだ。だから上からじっと見つめられるとカツアゲされるんだろうかとかパシらされるんだろうかとか、いつも色々考えて身構えてしまう。本当か嘘か分からないけれど時々あんまり良くない噂(彼女が週替わりだとか、どこそこの先輩の彼女を寝取っただとか、キレて乗り込んできた先輩をぶちのめしたとか……)聞いたりするから余計怖くて身構えてしまうのだ。そんな俺の頭をやつは決まって面白そうに口元を緩めながら撫でていく。一体何がしたいんだかわからない。何で俺に絡むのだろう。俺と黄瀬涼太の接点なんてクラスメイトというものしかない。同じ部活でもなければ近くの席でもないし、委員会も違うのに。なんなんだ、全く。胃に穴が開きそうだし、ストレスで蕁麻疹とか出そう。俺が可哀想すぎて泣いてしまいそうだ。「おはよ、佐伯クン。今日もカワイイっスね」ちょっとだけ目を細めていつものように黄瀬涼太は俺の頭を撫でた。やめろ撫でるなお前なんか怖いんだよ目の奥笑ってないし!なんて言えるわけもなく、今日も今日とて俺は黙って頷くのである。ああ怖すぎるぞ黄瀬涼太!
2022.07.29