ぼくのすっごく格好良くて可愛い恋人は、とっても料理が上手だ。どんなリクエストをしても、ぱぱっと簡単に作ってしまうし、そのどれもが最高に美味しい。だからぼくは食べることが好きになったし、誰かと一緒にご飯を食べることの素晴らしさを改めて実感できた。
けれど、最近、それが少し悩みでもある。
ぼくの恋人、大和くんの料理は、彼の愛情がこれでもかってくらい詰まっていて、一口食べるだけで幸せになれる。ぼくが美味しいって言ってたくさん食べると、大和くんもとけちゃいそうな笑顔を見せてくれるのだ。だからいつも彼の料理は残さず全て平らげてきた。時々作ってくれる甘くてほっぺたが落ちちゃいそうなお菓子も全部、彼の愛情は全部飲み込んでいたのだけれど、最近、ちょっとだけ、太ったのだ。
ぼくが大和くんと付き合い始めたのはまだまだ駆け出しのころで、そのころは食べても全部エネルギーになって消費されていた。けれど最近、仕事にも慣れてきたし、あんまりはちゃめちゃに走り回るような仕事もしていなくて、ちょっとだけエネルギーが余っていた。余ったそれは少しずつ溜まっていたようで、気が付けばちょっと、アイドルとしてはあまりよろしくない体重になってしまっていたのだ。
更に言うと、今日、ランランに「嶺二、お前また太っただろ。完全にデブだぜ」と冷たい声で言われてしまったのだ。またってなんだ、て思いもしたけれど、確かに太った、と、思う。これはちょっとヤバいな、って自分でも思ったのだ。

「……今日の不味い?」

ふと聞こえてきた声にハッと我に返った。そうだ、今は夕飯の時間で、久々にぼくがビーフシチューを食べたいといったから彼は野菜と柔らかい牛肉がたくさん入った特製ビーフシチューを作ってくれたのだ。
ぱっと視線をあげれば、眉を下げ、困ったような悲しそうな、見ていてぎゅうと胸が痛くなる顔をした大和くんがぼくを見つめている。こころなし目が潤んで見えて、慌てて首を振った。

「美味しいよ!今日のもすっごく美味しい!」
「じゃあ何かあった?お前、全然食べてない」
「あ、えと……」

困った、どうすればいいだろう。あんまり太ったって言いたくない。それで嫌われるとは思わないけど、ちょっと怖い。
うろうろと視線を彷徨わせてもごもごしているぼくを大和くんは黙って待っている。彼のこういうところがすごく好きだ。急かしたりしないで、ちゃんとぼくのことを待っていてくれるのは嬉しい。

「あの、あのね、その……ぼく、太ったみたい……」
「それで?」
「それで……?えと、ちょっと食べるの、控えた方がいいかな、とか……。あっ、いや、あのね、ぼくマトちゃんの作ってくれるご飯すっごく好きなんだけど、美味しいからいつも食べ過ぎちゃって、いや食べ過ぎっていうか、動く分よりも多く食べちゃうっていうか……それで今日ランランに太ったって言われて、それで……」

一瞬大和くんが顔を顰めたから慌てて言い訳じみたことを言ってしまったけれど、それに反して彼はふーん、と言いたげなあんまり興味が無さそうな顔をした。
あれ、なんか思ってた反応と違う。もっとこう、何か言ってくれてもいいんじゃないかな。「そんなことないよ、嶺二くんは今でも十分だよ」とか「どんな嶺二くんも素敵だよ」とか……ちょっと悲しくなってきたからやめよう。
大和くんはぼくの窺うような視線に、少しだけ眉を上げてから考えるような顔をした。そしてゆるりと口角をあげ、じゃあ、と口を開く。

「一緒にトレーニング、する?」

ドキッとしてクラッとしちゃうような、艶めいた笑みと甘く囁くような声に、かあっと顔が熱くなる。ぼくは彼のこの顔が苦手だ。頭がふわふわして、訳が分からなくなってしまうから。

「……する」

頷くぼくの顔がどんなんだったかなんて、想像もしたくない。


* * * 


「ん~~~いいじゃん、嶺二最高にカッコイイよ。あとは維持する程度に運動しよ」

鏡越しに見える大和くんの顔はなんだか満足気というか達成感に満ちているというか、やり切ったというような顔をしていた。
鏡に映るぼくは前よりも頬のラインがシャープになったし、服の上からでも筋肉がついたのが分かる。体も軽いし、多分体力もついてる。前よりライブや番組で疲れる度合いも違うのだ。後輩ちゃんやおとやん達にもすごいって言われたし、ランランにもやれんじゃんって言われたから嬉しい、けど、なんか違くない?
大和くんのトレーニングは筋トレやランニング、ストレッチなんていう基礎的なものばかりだったけれど、なかなかにハードなものだった。ぼくの体の状況をみて色々メニューを組み替えたりして、たくさん考えてくれたのは純粋に嬉しいし、大和くんと何かをするのはとても楽しい。けど、ちょっと腑に落ちないというか。
いや、そんなね、別に期待してたとかそんなんじゃない、こともなくはない、というか、まあちょっとだけもしかして~なんて思っちゃった部分もあるけど。だってあんな顔されたら、きっと誰だってちょっと期待しちゃうと思う。そういう、ちょっとえっちな感じの。
でも大和くんの言うトレーニングはまんま極々普通にハードなトレーニングだった。なんか、騙された感じが少しする。
ちょっとばかり不服そうな顔をするぼくに、大和くんが首を傾げた。

「なに、嬉しくない?痩せたよ?こんな感じの大体毎日してたら別に食う量減らさなくて済むぞ?」

なんだかなぁって思ったけど、体も多少引き締まって体力もついたし、にこにこ笑顔の大和くんを見てたらまあいいかって思ってしまう。ぼくって単純だ。

「ううん、嬉しい。ありがとね、マトちゃん」

星と細胞とチョコレート

2015.12.22 | ツイッターでぐだぐだ言ってたネタ。寿嶺二とは??????