※紫原くんたちがツイステの世界に行っちゃったクロスオーバー


その“扉”である棺を開けた時、学園長のディア・クロウリーは大いに驚いた。
というのも、通常このナイトレイブンカレッジに運ばれてくる新入生入り棺は、ひとつあたり新入生も一人、と決まっている。だがその棺の中には二人、入っていたのだ。
色々な体格の生徒がいるため、それなりに大きめにしてあるとはいえ、この棺は一人用である。中に入っていた生徒が二人とも小柄な体格なのであれば、まあうっかり双子を一緒に納めてしまったのかな、とも思えるがこの二人はそうではない。
片方は二人入れそうな華奢で小柄な、まだ十三、四歳にも見える生徒だが、もう片方は一人でも些か窮屈そうな身長二メートルは優に越している大変発育の良い大柄な生徒だったのだ。二人はパズルでも組み合わせるように横向きに棺の中へ収納されていた。
そのあまりのみっっっしり具合に学園長はとても驚いたし、どうやって二人入っているのかしげしげと見てしまったし、何がどうして二人入ってしまったのか首を傾げた。
それから、艶やかな黒髪をした小柄な生徒を、まるで守るように柔らかなラベンダー色の髪をした大柄な生徒が抱き締めていることにふむ、と顎をさする。まあ二卵性の双子であれば対格差や髪色の違いがでてくるかしらん、と納得し、学園長はみっっっしり詰まっている二人を起こすことにした。

「さあお寝坊さんたち、もう入学式は始まりますよ!」

たっぷり十秒ほど待ってみたが、二人はぴくりともしない。

「全く……起きなさい、遅刻ですよぉ!」

さあさあ起きてください、と二人の肩を揺すると“二人の間”が何やらもぞもぞとしだした。その隙間に一体何が、と手を引きすぐに後ろへ下がれるよう見ていると、ぴょこん、と青い炎の燃ゆるふわふわのお耳と大きな寝ぼけ眼が可愛らしい顔が二人の式典服の間から飛び出てくる。
うっかり寝ちまったんだぞ……とふなふな言いながらその猫型魔獣(推定)は二人の体のわずかな隙間からにゅるりと出てきた。

「猫は狭いところが好きですからね……」

よくそんな隙間に入っていたなと思いながら学園長がしみじみ呟き、その言葉に魔獣が「猫じゃないんだゾ!」と返した時、ようやく棺の中の二人が動き出した。
先に目覚め、身を起こしたのは小柄な生徒の方である。
プライマリースクール入学したてほやほやな幼子の如き無垢でまっさらな瞳がぱちぱち瞬いて、辺りをあちこち見渡した。ぱか、と小さな口は呆けたように開けられており、それがますます彼を幼げに見せている。
その少年の様子に、学園長は「はゎゎ……」と口元を手で押さえ恐れ戦いた。この子、絶対ウチの生徒じゃない、と。
この穢れなど何も知らないといわんばかりの無垢な眼差し、悪意など欠片もない幼子のような表情、特徴としては絶対にロイヤルソードアカデミーの生徒である。

「ああどうしましょう……!でもそんな間違いなんて起こります!?」

「……あ、あつしくん、起きた?」
「ん~……ん?水緒、何その服、どしたの」
「起きたら着てたよ。あつしくんも着てる」
「は?……ここどこ」

ぬ、と巨体が起き上がり眠たげな瞳が辺りを見回して、それから学園長を見つけぐっと顔を顰めた。髪色と同じ柔らかな色合いの紫の瞳が敵意むき出しにこちらを睨みつけてくる。

「あ、彼は間違いなくウチの生徒ですね。ふう……まあもう起きてしまった事をとやかく考えても仕方がありません!とりあえずお二人とも早くそこから出てください、もう入学式が始まりますので鏡の間へ行きますよ。あ、それとこちらの使い魔はきちんと登録してますか?」
「ふな!?俺様は使い魔なんかじゃんねぇんだゾ!」
「おや?まさか、手懐けられていない使い魔ならば校則違反ですよ!まったく……」

ぺらぺらとよく回る口で話をする学園長を大柄な生徒はただじっと警戒するように睨み続け、何も言わない。小柄な生徒を守るように膝へ抱き上げ囲う様に、学園長は何をそこまで恐れているのかと首を傾けた。
この場に来ているということは少なくとも入学案内の封書が届いて、それを受けて入学することを決め、馬車の迎えに応じただろうに。何故全く未知の場に居合わせた者のような顔で、そうも警戒をしているのか。

「もしかして、空間転移魔法の影響が出てるんですかねぇ……先に保健室に行きますか?」
「……今魔法って言った?」
「はい?ああ、ええ、空間転移魔法と言いましたよ?」

一体なんでそんなことを訪ねてくるのかと訝し気な顔をする学園長を横目に、大柄な生徒はぐるりと再度辺りを見回し、腕に抱いた少年を見下ろして、何かを確かめるように触れてからこちらをじっと見た。

「ここは?」
「う~ん、やっぱりちょっと記憶が混濁してますかね……。ここはナイトレイブンカレッジの鏡の間です」
「……水緒、知ってる?」

腕の中にしっかりと囲い込まれたままの水緒と呼ばれた少年は、こてりと首を傾ける。ともすればあざとく見えそうな仕草だが、彼がするとまるで何も知らぬ幼児にしか見えない。
やはりどう考えてもこの学園には相応しくない無垢さが見え、学園長は仮面の下の眉をこれでもかと下げた。

「聞いたことあるよ」
「え、まじ?」
「クラスの子がお話してた」
「どんな?」
「んーと、前にあつしくんと行った遊園地の、んー、いろいろがモデルになったゲームでね、流行ってるんだって」
「遊園地……どれ?」
「ネズミのお耳つけて歩いたとこ」
「あ~~~~……は?どゆこと?ゲームん中?なに、夢?は?」

混乱する敦と呼ばれた少年を横目に、水緒は自分の足元にくっついてうとうとしている猫型魔獣(推定)におそるおそる手を伸ばしそのふあふあの毛並みをそっと撫でた。
数分前まで元気に「俺様は使い魔じゃないんだゾ!」「おい!話を聞け!」とお喋りしていたのに、気が付けばまた棺の中へ戻ってきてこうしてくっついていたのだ。くっつきながら「なんだか体が勝手に動くんだゾ……」「ふな、眠くなってきた……」「ふなぁ」ともにゃもにゃ言っていたが、水緒が聞かれるままに話をしているうちに大人しくなってしまったのだった。
水緒に触れられた一瞬、ぴるる、と不思議と熱くない青い炎の揺れる耳が動き、閉じられていた真ん丸の目が半分ほど開いたが触れたのが水緒だと分かるとすぐにその目は閉じられる。

「あつしくん」
「……なに」
「猫ちゃん、ふわふわ」

にこ!と擬音でも付いていそうな無邪気な笑みに、敦は考えるのを止めた。
学園長も二人の会話におや???と思うことが幾つかあったが全て聞かなかったことにして、ひと段落ついたらしい二人を棺から出すべく声を上げる。

「落ち着いたようなら二人とも、そこから出てください。いい加減入学式に行きますよ!これ以上遅くなったらまたあれこれ言われてしまいますからね、ほらほら早く出て」

考えるのを止めた敦は学園長に言われるまま水緒を抱き上げ棺から出た。と、足元で寝ていた魔獣もパッと起き上がりふなふな何かを言いながらついてくる。

「さあちゃんとついて来てくださいね、急ぎますよ」

「あつしくん、僕歩けるよ」
「はぐれると危ないからダメ。ちゃんと掴まってて」
「はい。……あつしくん、魔法がつかえたらどんなのがいい?」
「ん~、ポケットからお菓子がどんどん出てくる魔法」
「ビスケット以外も出てくる?」
「グミもポテチもまいう棒も出てくる。水緒は?」
「どこでもあつしくんとお話できる魔法!」
「は?かわいいかよ」

「なんかこいつらの会話聞いてると気が抜けて眠くなるんだゾ……」
「全くです。本当にここの生徒でいいんでしょうかね、この子たちは……」

後ろから聞こえる二人の会話に幾許かの不安を抱きながら、学園長は足早に入学式の会場である鏡の間へと向かっていった。

混ぜこぜの色彩環

2023.08.13 | ずーーーーーっと放置してた書きかけのクロスオーバーです。