洗剤なのかシャンプーの類なのか、それとも本人の体臭なのか、どこか甘いそのにおいを目一杯吸い込めばぞくりと身体の奥が歓喜に打ち震えた。適度に筋肉のついたしなやかな身体は俺が抱き締めるには驚くほど丁度良い大きさで、誂えたようにぴったりと収まる。本当に何から何まで、俺の為に存在しているように思えてしまう。
いや、実際こいつは、俺に出会うために生まれてきたのだろう。そして俺も、こいつに出会うために生まれたのだ。だってこんなにも惹かれるのだ、そういう星回りの運命だったとしか思えない。

「い、い加減にしろ、離せ!」

ぐっと胸を押されるがままに身体を離せば、恥ずかしかったのかきつく睨み付けられてしまった。水気を帯びて星の煌めく青緑の瞳に貫かれ、頭が痺れるような感覚に陥る。ああ本当に、なんて男なのだろう、こいつは。
誘われるがままに白い頬に手を寄せるがすぐさま叩き落され、ついでとばかりに思い切り突き飛ばされる。離れた身体が寒いのだろう、彼は一度ふるりと小さく震えて何かを呟いた。

「どうした、恥ずかしいのか?」
「ちげーーよ!も~ホントに話通じねぇな、毎朝毎朝何なんだよ!」
「挨拶だ」
「挨拶は口でしろ、ボディランゲージですんな」
「口にしろ?何だキスの方が良かったのか。やれやれ、我儘だな大和は」
「は?何でそ、ちょ、ヤメテクダサイ、顔が近い!やめ、やめろ!」
「こら、暴れるな」
「暴れますけど!?離せよホントに!」
「……はあ、いつ触っても細い腰だな。心配になる」
「おいどこ触ってんだ、っぅあ、やめ、やめろ!手を、入れるな!触んなこのクソ変態!」

上着の中に手を滑り込ませワイシャツの上から腰や背中を撫で摩れば、薄い布越しに大和の熱が伝わってきて、くらくらする。首筋に顔を押し付けたまま籠った熱を息と共に吐き出せば、またびくりと抱き締めていた体が震えた。怯えた小動物のようなその仕草が堪らなく俺を煽るのだときっとこの可愛い男は知らないのだろう。
ああ、本当に可愛い。このままどこかに連れ去って身体の奥、骨の髄まで俺の愛でめちゃくちゃにしてやりたい。頭から爪先まで、俺の触れていない場所がひとつもないくらい愛でてぐずぐずにしてしまいたい。
暴れる腕ごと抱き締めたまま手を下へと滑らせ、毎日触れている無防備で魅惑的な尻を鷲掴んだ。本当にこいつの尻の柔らかさはどうかしている、柔らかいのにしっかりと弾力があって、クセになるとかいうレベルじゃあない。永遠に触っていられるし、永遠に触っていたい。
すっかり静かになってしまった大和の顔を覗き込めば、赤い顔で唇を噛み締め瞳を潤ませていた。俺のことを殺しにきているとしか思えない。

「……保健室に行くぞ」
「あ?」
「初めてはベッドの上の方がいいだろ?」

こいつがファーストキスすらまだしていない、本当に全くの未経験だっていうのはもう既にしっかり調査済みだ。こんな奴が今まで全くの手付かずで生きてこれたと知ったときは柄にもなく神に感謝してしまったくらい感動したし、何かの奇跡かと思った。だがまあ、こいつの全てが俺の為にあるのならば当然といえば当然のことなのかもしれない。
再び暴れ出した身体を抱き上げ、足早に保健室へ向かう。集まる視線が鬱陶しいが我慢だ。途中花京院が物言いたげな顔でじっとりこちらを見つめ、咎めるようにスタンドの触手を伸ばしてきたがスタープラチナで跳ねのけてしまえば、やれやれとばかりに首を振り教室へと入っていった。旅の途中、散々こいつの話をしたから分かっているのだろう。
そうして辿り着いた保健室のドアを蹴破る勢いで開け、奥のベッドへ大和を放り投げた。逃げないように一応スタープラチナで腕を押さえつけ、混乱している保険医を追い出し鍵もかける。
さて。
くったりと力無く横たわる大和の顔にかかる髪をよけてやりながらすぐ横に腰を下ろすと、目の前の身体は怯えたように震えた。そっぽを向いたままこちらを見ようとしない大和の柔い頬を掴み、半ば無理やり目を合わせる。薄く潤んだ瞳には未知なものに対する怯えや恐れが浮かんでいるけれど、俺は知っているのだ。その奥に期待と熱があるということを。

「ホント何なんだよ、俺に何かしてるだろ、身体動かないんだけど」
「大丈夫だ」
「何が!?天にましますわれらの父よ、この変態クソ野郎に死を与えたまえ~~!」
大和
「無理、やだ、ああクソ、動かない!」
「痛いことはしない、安心しろ」

圧し掛かるように覆いかぶさり僅かに涙の滲んだ眦に唇を押し付けると、余計溢れてきてしまった。少し塩辛いけれどそれ以上に甘く感じる。こいつのものは全て、頭がしびれるようなクセになる甘い味がするのだ。
微かに震える手に指を絡めて握り、頬や額にいくつか宥めるようにキスを落として上着を脱ぎ捨てる。もうスタープラチナで押さえなくても暴れなくなった大和を抱きしめ、薄い布越しに伝わる体温に目を閉じた。

大和>」
「……」
「大丈夫だ、絶対に痛くはしない。お前はただ感じていればいい」
「……なんでこんなことすんの、強姦じゃんこんなの」
「お前も望んでいるのに?」
「の、望んでね~~!!」

どん、と強く胸を押されるままに少し身を離せば、顔を真っ赤にさせた大和が涙で濡れた瞳で俺を睨みつけてくる。こいつは今自分がどれだけ男を煽る顔をしているのか分かっているのだろうか。俺じゃあなかったら今すぐ引ん剥かれてブチ込まれていただろう。

「お前、ホントなんなの、こんなんする前に言うことあんだろ……」
「言うこと」
「俺は付き合ってもいないような人間とべたべたしくないし、こういうこともしたくない!」

またぐぐぐ、と胸を押される。一生懸命距離を取ろうとする大和の目尻からまた一滴涙が流れ落ちた。

大和、好きだ。愛している。結婚してくれ」
「極端」
「お前は言ってくれないのか」
「……トモダチからはじめてくれ」
「そのトモダチはどこまで許されるんだ?キスは?こうして、触るのは?」
「ぅ、だめ、しない、しません!」

スラックスからワイシャツを引き出して、直に触れた肌は驚くほど熱い。滑らかな触り心地も相まって触れた場所から溶け出してしまいそうだ。
耳朶を舐めて、食んで、すっかり大人しくなってしまった大和の名前を呼ぶ。

「お前も俺のことが好きだろう」
「すきじゃない」
「やれやれ、意地っ張りだな」

いやいや言う唇を何度も啄み、今すぐ全てを引き千切って思いのままにしたいのを必死に飲み込んで一枚ずつその身体を隠すものを剥いでいく。こいつは何も知らないのだ、優しくしなければいけない。優しく、ゆっくり、何も考えられないほどの愛を与えるのだ。
そうして全て俺だけで埋め尽くされてしまえばいい。俺がそうであるように、大和もまた、俺の全てに囚われればいいのだ。

囁きながら噛み付きたい

rewrite:2022.02.20