※not監督生、ハーツラビュル寮生が主人公
※男監督生です



デュースとエースとジョシュア、この三人は僕がこの世界にきてしまってからはじめて出来た友達で、一番の友達である。今日はそのうちの二人、エースとジョシュアの話をしよう。

二人は僕がいた世界でいう小学校の頃からの仲である幼馴染でトンデモない悪戯やら悪行を共に行う悪友でもあるという。ケイト先輩は二人を“フタゴちゃん”と呼んでいるし、イデア先輩が二人をこっそり“ハッピーセット”と呼んでるのを知った時にはこっちにもそういうのあるんだ、と少し郷愁を覚えたりもした。
僕自身も二人はセットだという認識があり、仲睦まじい様子から恋人同士なんだろうなと思っていた。世の中には色々な愛を持つ人に溢れている。僕の向こうの世界にいる幼馴染の女の子も同性愛者だったからか、僕も特段偏見や嫌悪は無いから、ああいいなあ恋人がいるのかぁ青春だなぁ、くらいにしか思っていなかった。

そんないつでもぴったりくっついている運命共同体みたいな二人が、僕の「二人っていつから付き合ってるの」という他愛もない好奇心から発生した問いによって、別に付き合っているわけでも何でもないただの(???)友達であると知った時はこの世界の友達が何かよく分からなくなったものだ。いやまあ、回し飲みや食べ物のシェアはやらなくはないが、食べさせあったりはしないし、頬や額にキスなんかもしない。
この世界は、僕の知る世界で言う海外に近いからこっちはそういう文化なのかな、と思ったがデュースは黙って首を振っていた。やらねえということだ。
クラスが違うため通常の授業は別々だけど、合同授業の時や選択授業で重なれば必ず二人は隣同士、ペアだし、なんなら時々手繋いで歩いてるし、後ろから抱き着いて頬をくっつけたりしているのに、別に付き合っていないのだ。これで付き合ってないの?逆になんで?となるのはもう普通だろう。
隠してるのかな、とも思った。冷え冷えとした偏見の目や差別的で排他的なものから。だがこの世界は僕がいたところとは違い、同性同士の恋愛も結婚も極々普通の当たり前に存在していた。揶揄われたくないからかな、とも思ったが、こんな辺境にある日常的な出会いなんてなさそうな学校内で恋人がいるというのはある種のステータスになるらしい。それが同じ男だろうがなんだろうが、“恋人”であるのならば最早そいつは勝ち組なのである。

つまり、本当に付き合っていないのだ。

「え、ほんとに?ほんとに付き合ってないって言ってたの?ほんとに?」

二人の別に付き合ってないけど発言から三日、ハーツラビュル恒例のなんでもない日のパーティの会場でケイト先輩とトレイ先輩に何故か僕が質問攻めにされていた。
どっかの誰かから聞いたのか、先輩たちはあのフタゴハッピーセットが付き合っていないと知ったらしい。本人たちに聞けばいいのに何故僕に聞くのか。

「ホントみたいですよ。エースにはそんなわけないじゃんって言われましたし、ジョシュアも別に付き合ってないけどって言ってましたし」
「え、ほんとに……?なんで?」
「な、なんで?とは?」
「昨日だって二人で夜にキッチンでこそこそしてるから何してんのかな~って見に行ったら、怖い動画観て眠れないからホットミルク飲んでるって言っててさ。でもマグカップ一個しかないわけ。ええ~?て思ってたらそのマグ一個をさあ二人でシェアしてるわけ……あれれ~?とは思ったけどまあ半分こくらいならするかな、とかさあ……けーくんもリドルくんと半分ことか偶にするしさあ……でも飲み終わった後手繋いでそのままエースちゃんとこの部屋入ってって、あ、一緒に寝るのね~みたいな……え、付き合ってないんだよね?」

よく回る口だなあとぼうっと眺めていた僕は「はあ」という適当な相槌しか返せなかった。
いやもう僕に言われても困るんですよ。僕は当事者じゃあないし、何度確認されたところでそこにある事実は変わらないのだ。

「トレイくんもなんか定期的にエースちゃんに当たられてるよね」
「あー、まあな……」
「え、なんですかそれ」
「ほら、ジョシュアのスートは俺と同じクラブだろ?お揃いでいいなってたまに言われるんだよ」
「寮生の四分の一とお揃いですけどね」
「あはは、確かにね!たまにリドルくんにもなんでジョシュアはクラブなんですかって聞いてるっぽくてさ~、面白いんだけどそろそろリドルくんが噴火しちゃいそうで怖いんだよね」
「逆に鬱陶しいから同じスートに変えてやる、とかもないんですね」
「法律があるからな。一度決められたスートは変えてはいけないんだ。女王にならない限りは」
「じゃあもう永遠に堂々巡りですね」

遠くの方でトレイ先輩お手製タルトを食べながら顔を寄せ合って話をしてはケラケラ笑っているエースとジョシュアに、三人揃って息を吐く。

「すっごい仲良しさんだね、やっぱり」
「まあ、仲が悪いよりはいいだろ」


* * *


「なんて?」
「だからぁ、付き合うことになったっつってんの」

エースとジョシュアの衝撃の事実(俺たち別に付き合ってないけど)から約三週間、いつも通りの朝、二人は仲良く手を繋いで現れた。いつもと違うところは指が絡み合う所謂恋人繋ぎをしていたことくらい。
あらぁ、今日は一段と仲良しねぇなんて近所のおばちゃん的感情で流して挨拶をしたところで、これである。デュースはもう聞いていたのか平然とした顔をしているが、僕は普通に混乱した。

「えっと、おめでとう……?昨夜はお楽しみでしたね……?」
「いやまだなにもしてねーわ」
「な、なにがあったわけ?」
「別になぁんにも。ただ自覚しただけっつーか」
「確認してったらこうなったっていうか?」
「ほ~ん……?」
「昨日は凄かったんだ、夜にジョシュアが泣きそうな顔で部屋に入ってきて『俺たちってなんなの』って言うから僕はもうドラマでも始まったのかと思った。途中から防音魔法で聞こえなくなってしまったが面白かったぞ」
「……忘却魔法失敗してんじゃんジョシュア
「いやあれ難しいんだって。待って、も一回掛けてみるから」
「もう物理的に記憶無くなるまで殴った方が早くない?」
「僕に喧嘩で勝てると思うなよ」
「急に元ヤンだすじゃん」
「待って待ってやめろ!喧嘩しない!遅刻するから!」

にやにや笑って見てるエースの頭を引っ叩いて、ぐるぐる肩を回して準備運動をし出すデュースの頭にまだ半覚醒状態のグリムを乗せ、ジョシュアのデュースへ向けられたマジカルペンを下ろさせる。

「放課後お前のルームメイト全員埋めなきゃならなくなったな」
「やめてやって」
「別にそんなに恥ずかしがらなくてもいいんじゃないか?」
「顔が笑ってんだよな、デュースくんよォ」
「こらこらこら、マジカルペンを向けない」

やいのやいのと大騒ぎして、結局僕たちは少し遅刻してしまったのである。
エースとジョシュアが付き合っているという話もあっという間に広がって、やっぱり付き合ってんじゃねぇかと一部の野郎どもにエースは手袋を叩き付けられていたし、恋人が出来たならば自分磨きを怠るなとポムフィオーレ寮のクラスメイト達にジョシュアは囲まれていた。
そのしばらく後に開かれたハーツラビュル恒例パーティでは、結局僕もまた先輩たちの質問攻めに合うことになる。だから本人たちに聞いてくれ。僕は運命共同体ハッピーラブセットの保護者でもなんでもないのだ。

ひなたのてのひら

2021.03.09