バッドエンドのサイレンが鳴る
彼の中での最優先事項が僕だということは知っていた。とても大切に思ってくれていることも知っているし、覚えの悪い脳が覚えていることのほとんどが僕のことだということも知っている。
でも、やっぱり、僕以外の人間を目で追っている姿を見ると不安になるのだ。彼も男だ、そりゃあ素敵な女の子がいれば目で追ってしまうのも仕方がないと思う。
思うけれど、受け入れられないのだ。僕以外を目で追うなんてと思ってしまうし、なにより、彼の視界の中にいていいのは僕だけなのだと思っていたい。
「大輝?」
ぼうっと窓の外を見つめる姿を見つけて、珍しいなんて思ってそばまで近寄って発しようとしていた言葉を飲み込む。
綺麗な女の子がいた。窓の向こう、彼の視線の先に。
「大輝」
驚いたように肩が揺れて振り返る。
「ああ、薫か。もう寝てなくていーのか?」
くしゃりと笑って、大きな手で頭を撫でてくれる。いつもは嬉しく思えるその動作に今は何も思えなかった。
「……薫?」
どうしたんだと見つめてくる青い瞳の中で、ゆらゆらと陽炎のように自分の姿が映っている。今彼の視界には僕しかないけれどついさっきまで、そこには僕の知らない女の子が映っていた。
今のように、彼が時折追いかけるのはどの子も僕なんかよりもずっとずっと素敵な女の子だった。男の僕が決して持つことの出来ないものをたくさん持っている、可愛くて柔らかい女の子なのだ。
僕には曲線を描く柔らかい体も、甘いにおいも、優しいあたたかさもない。何もないけれど、それでも彼の視界を占有していいのは僕のはずなのに。
ふといつだか読んだ伯爵夫人の話を思い出した。可愛くて素敵な女の子たちの血を浴び若返ろうとしていた伯爵夫人のように、彼が追いかけるような子たちの血をたくさん浴びたら僕ももっとずっと素敵になれるかもしれない。
女の子にはなれないかもしれないけど、でも女の子よりも可愛くて素敵な人になれる気がするのだ。
「ねえ大輝、僕もっと可愛くなるから、僕のこと以外見ないでね」
rewrite:2022.03.10