「そば?うどん?」
「そば!」
「あとは?」
「天丼!征十郎は?」
「うーん……ガパオライス」
「新メニュー?」
「そう。書記の子が美味しいって」
「ほーん。この前馬鹿でかいウサギのピン付けてんの見た」
「ああ、話しかけられたって言ってたな」
「最初ぬいぐるみだと思ってどうやって付けてんのかなって思ってさぁ」
「可愛いって言ったんだって?」
「うん、ふあふあしたなんか可愛いウサギだったから。あれは征十郎も似合うと思う」
「ええ……?」
「どこで買ったのかも教えてもらった」
「……付けないぞ」
「ちょっとだけ」
「嫌だが」
「俺しか見ないからいいじゃん」
「だから嫌なんだ」
「え~~~?」
「逆に大和は俺が付けてって言ったら付けるのか?」
「ちゃんと可愛い~~~てしてくれんなら付けてもいいよ」
「……お前はそういうやつだったな。ほら天丼ですよ、お食べなさい」
「露骨に逸らすじゃん。あ、卵の天ぷら!見て!」
「良かったな」
「美味しい……ガパオも美味しい?」
「ん、そうだな、ちょっと辛いけど美味しい。……ほら」
「ありがと。……ん、美味いな。次これにしよっかな。はい、海老一個あげる」
「ありがとう」
「……今日、ヤッコさんが街を蹂躙する夢みたんだけど」
「えっ?」
「折り紙のヤッコさん分かる?」
「ああ、うん」
「それのでっかいやつ。あ~……ゴジラくらい?」
「思ったよりだいぶん大きい」
「で、材質も紙じゃなくて金属」
「ロボットじゃないか」
「ああ~~~言われてみればそうかも。ぺらぺらの平べったいロボット」
「それが暴れてたのか?」
「や、暴れてたっていうか……俺は実家にいて、おにぎり食べてるときに外から何か壊れるどでかい音がしたからキッチンとこの窓から外見て」
「うん」
「そしたら窓から赤黒くてぬらぬらしてる平べったい巨大建造物が見えて、それが家のすぐ横にあった電柱薙ぎ倒してた」
「それがヤッコさん?」
「うん。その馬鹿でか建造物がぐうっと折れ曲がって、こっち覗き込むような動きしたから咄嗟にしゃがんで隠れたんだけど」
「怖い」
「めちゃめちゃ怖かった。バレないように移動して外見たら、そのヤッコさん俺ん家の裏の家跨ぐみたいに道路にそれぞれ両足置いてる感じで立ってて」
「うん」
「その赤黒くてぬらぬらしてんのは完全に血なんよ」
「うわ」
「見つかったら殺されるって直感的に思って父さんと母さんに隠れるように言ったら、なんでか二人ともキッチンに来て隠れようとするからめちゃ狭かった」
「ふふ、ちょっと面白いな」
「で、またうちにイマジナリードッグがいるんだけど」
「もしかしてミニチュアシュナウザーか?」
「うん。それも二匹」
「やっぱり飼いたい願望の表れでは?」
「う~ん……可愛いから飼ってみたいなとは思うけど、絶対俺より先に死んじゃうだろ」
「まあたいていはそうだろうな」
「耐えられる気がしない」
「そうか」
「うん。だから征十郎もちゃんとしっかり俺より長生きして」
「はい」
「はい。それでえーと……イマジナリードッグのシュナ二匹もキッチンに来て、俺と母さんがそれぞれ抱っこして隠れるんだけど、そん時に多分目が合った」
「……ヤッコさんと?」
「ヤッコさんと。目が合ったっていうか、認識されたって感じ?」
「ああ……」
「絶対不味いことになんなって思ってるうちに夜んなってて、家の中も暗くなってきたからカーテン閉めようとちょっと窓の外見たらもうヤッコさんはいなかったんだけど、どっか行ったっていうわけじゃない。目が合ってるから」
「嫌な予感しかしない」
「で、とりあえず今日は電気付けないで蝋燭とかで過ごそうって母さんが言って用意してたら、シュナウザーの一匹がもう一匹の腰辺りに急に噛みついて」
「うん」
「それ、ヤッコさんなんだよ」
「え。え?」
「噛みついてる方はヤッコさんで、本物のもう一匹は父さんと一緒にソファにいる」
「……目が合ったから?」
「うん。目が合ったから這入ってきた」
「化けるのか。怪異と同じ感じなんだな」
「あ~そうかも。そういうのいるもんな。そんで、母さんと二人がかりで引き剥がしてシュナのふりしてるヤッコさんを窓から外に放り投げた」
「そんなんでいいのか」
「多分良くない。良くないんだろうけどそれ以外どうしていいか分かんないからそんまま放ったままにして、誰も増えないことを願いながら朝になるの待って、外が明るくなってからまた窓の外見たんだけどまだ放ったとこにいるんだよ」
「シュナウザーのまま?」
「うん。シュナウザーのままだし横たわったまま」
「……」
「言いたいことは分かる。俺も外に放り投げた方が本物で、噛みつかれた方がヤッコさんかもって思った。けど外に行って確かめるのも怖いし、なんなら父さんと母さんも本物か分かんなくなって気狂いそうになったとこで目が覚めました」
「最悪な目覚めだな」
「とりあえず二人にメッセ送った」
「なんて?」
「うちに犬なんていないよなって」
「返事は?」
「父さんからは『犬はいません』って返ってきたけど母さんからは『百九十センチメートルのオスの犬ならいます』って」
「……笑っていいところか?」
「笑っていいんじゃない?超インドアのセント・バーナードです、だって」
「ふふ」
「俺はスタンダードプードルって言ってた」
「あはは!」
巨大ヤッコが出現した夢
2023.07.02