「親子丼」
「あ、俺も今日は親子丼の日」
「ステーキじゃなくて?」
「うん」
「大盛り?」
「うん」
「ちゃんと噛んで食べるんぞ」
「いっつもちゃんと噛んで食べてるよ、ママ」
「この前牛丼飲んでただろう」
「つゆだく牛丼は飲み物だろ。征十郎も玉子かけご飯はほぼ飲むじゃん」
「玉子かけご飯は飲み物だから」
「一緒一緒」
「肉は噛まないと消化に悪い」
「んも~、分かったよママ。次からちゃんと噛んで食べるって」
「そうしなさい」
「あ、征十郎お焼き食べない?」
「うん?」
「飯口が美味しいお焼きの店教えてくれたから行こ」
「ああ、いいよ。金曜日部活休みだけど」
「じゃあ金曜日!季節限定のとか種類がいっぱいあんだって。トマトとかまいたけとか、あと山菜の……聞いたことないやつ」
「ふふ、聞いたことないやつな。そういえばまだ味噌とか残ってるけど泊まるか?」
「泊まる。あ、この前言ってた本読み終わったからそれも持ってく」
「ああ、ありがとう」
「今日さぁ、征十郎蘇らせる夢みた」
「黄泉比良坂?」
「や、洋風。魔術のようなものでこう、蘇らせてた」
「……それ俺はちゃんと人間の形をしてたか」
「錬金したわけじゃないから大丈夫」
「う~ん……」
「俺が吸血鬼一家が住んでそうな洋館で暮らしてるんだけど」
「おお」
「地下室に冥界に繋がる穴があるんですよ」
「え?」
「地下に繋がる階段を下りて真っすぐ進んだ奥に金属の柵で囲われた縦が一メートルくらいの長方形の穴があって、その底が冥界に繋がってる」
「そん、そんなすぐ冥界で大丈夫か」
「それは俺も思った。その穴も別にそこまで深いわけじゃなくて、覗いたらそこが見えるんだよ。で、冥界も広いから色んな景色の場所があんだけど、俺ん家の穴から見える場所は溶岩のようなものが流れてる岩だらけの場所」
「落ちたら間違いなく即死だな」
「死体処理にうってつけ。俺はしばらく溶岩流れてくのをぼうっと見てからリビングに戻ったんだけど、超デカい丸テーブルを知らん男女が囲んでひそひそなんか話してて」
「うん」
「この洋館には呪われた双子がいて、その双子が残した日記に触れると呪われて死ぬ~みたいな話を延々した後に『じゃあそれを探しに行きます』つってぞろぞろ地下室下りてくんだよ」
「フラグが立ってる」
「んふ。んで、いつの間にか俺も巻き込まれてて地下室でその日記を探すことになったんだけど、地下室がさっきとは違ってめちゃめちゃ広くなってて家具とか色々置かれた普通の物置みたいになってた」
「それも魔術?」
「なのかなぁ?俺は皆が探し回ってんの眺めながらぶらついてて、そしたら冥界穴の柵の手前に真っ黒な本が落ちてんのを見つけて」
「うん」
「なんだこれって拾おうとしたら連中が『呪いの本だ!』とかなんとかぎゃあぎゃあ騒いだ挙句逃げてって、俺と本だけ地下に取り残された」
「あはは」
「別に禍々しさとか感じなかったから普通に俺は手に取って中身見ちゃったんだけど、中のほとんどは謎言語で書かれてて読めなかった」
「読めたら不味いやつだったんじゃないか」
「よくあるやつだな。まあほとんど読めなかったんだけど部分的に読めるとこもあって、その読めたとこが死んだ人を生き返らせる手順だった」
「とうとう本題だな」
「それ読んで、ああ征十郎にまた会えるって俺は思いました」
「はい」
「手順はすごく簡単で、生き返らせたい人のことを思いながら冥界の穴に向かって魔力を込めた息を吹き込んで、その人が現れたら成功」
「え、そんなんでいいのか」
「そんなんでいい。超お手軽」
「試練も何もないな……」
「んはは。で、手順通りに穴の中覗き込みながら軽く息を吹いたら一番手前の岩がぶわって燃え上って、そしたら征十郎が立ってた」
「うん」
「全身ずぶ濡れで皮膚が水死体みたいにぶよぶよに膨れて歪んでたから、ああもう一回吹き込まないとなって思ってもう一回息を吹いたら征十郎の周りの岩も次々燃え出して」
「それもう一回死ぬやつでは?」
「大丈夫、熱気で征十郎乾燥させただけだから」
「……?」
「いつの間にか柵の向こうにコンクリートの階段が出来てて、そこを征十郎がゆっくり上ってくる」
「うん……」
「目の前にきた征十郎が『次は必ず一緒にいこう』っていったところで目覚めた」
「え」
「え?」
「心中の末に俺だけ死んだが生き返ったから今度こそは大和も連れて逝く夢?」
「なんでそんな混乱してんの」
「普通そこは『また一緒にいられるな』とかじゃないのか。なんでそこで一緒にいこうって言う?どこにいくつもりだ?」
「俺は嬉しかったよ」
「だから判定がガバガバ過ぎる」
「征十郎のこと大好きだから仕方ない」
「仕方なくない……」
赤司征十郎を蘇らせる夢
2023.05.21