「うちの柔道部の物マネか?」
「柔道部はもっと声ちっちゃい。最後の『っす』がかろうじて聞き取れるくらい」
「そんなに小さかった?」
「ん。体はでけーのにさ」
「……元気ないな」
「まだ気分が悪い」
「ああ、バイオみたいな夢を見たんだったか」
「うん。なんかまだ気持ち悪い」
「重症だな……昼ごはんは?」
「食べる」
「食べるのか」
「甘いものいっぱい食べて落ち着きたい」
「……もしかしてあのホットケーキ」
「ドリームジャンボ五億ケーキ」
「四限目なんだったんだ」
「体育でバドミントンしてきた」
「よし」
「征十郎は?」
「おいなりさんセット」
「ここの五目御飯めちゃめちゃ美味いよな」
「甘めの味が良い」
「わかる。三角のいなりってこっちきてはじめて食べた」
「ああ、向こうは四角が多いらしいからな」
「ていうかちゃんとした稲荷寿司をこっちきてはじめて食べた気がする」
「え?」
「俺の母さんさぁ、稲荷寿司は油揚げ使えば何入れてもいいと思ってるからチャーハンとか入ってんだよ」
「それは寿司って言っていいのか」
「母さんは『中華風おいなりさん』って言ってた」
「ふふ」
「あと父さんが同僚の人に蕎麦とかそうめん入れても美味しいって教えてもらって、それ入ってることもあった」
「お揚げに?」
「うん。中に一口ぶんくらいのそうめんとか蕎麦いれて包むんだよ。お揚げがしっかり味ついてるからそんまま食べて美味しい」
「へえ……美味しそうだね」
「あとはピラフも入ってたし」
「洋風おいなりさんか」
「そう」
「ほんとになんでも入れてるな」
「ちゃんとしたおいなりさんは多分一回くらしか食べてない」
「あはは。あ、来たぞお前のドリームジャンボ」
「うわ、おもーい!見てフルーツもいっぱい乗ってる」
「病気になりそう」
「征十郎も食べる?」
「食べない……」
「ん。……甘くて美味し~~~~!」
「良かったな」
「うん。元気になる」
「それは良かった」
「……征十郎にも夢の話していい?」
「今?」
「今」
「今か……いいよ、聞きます。どうぞ」
「あざーす。えとね、ランド的な遊園地に征十郎と遊びに行ってたんだけど」
「ああ、やっぱり俺もいるのか……」
「ほぼ皆勤みたいなもんだな。パークの入り口付近にちっちゃめの屋外映画館みたいなスペースがあって、そこに俺も征十郎もずっといんの。で、そこで映画じゃなくてなんかの映像観てメモとったりしてた」
「授業みたいだな」
「ああ、それに近いかも。座席は五、六人くらいで俺と征十郎以外いなくて、みんな通り過ぎてくだけでちらりとも見ないんだよ」
「そうだろうな」
「何個か映像観てメモとったりして、休憩がてらカフェ行ったりちょっとぶらぶらしてからまた映像スペースに戻ろうとしたらなんか違う部屋に入っちゃってて」
「うん」
「それが横幅が狭くて縦に長い部屋で、あ~……うちのクラスの委員長分かる?」
「ああ、あのいつも脇にラグビー雑誌挟んでる人?」
「うん。むっきむきの」
「分かる」
「そいつと、剃り込みとか刺青とか入ったどこからどう見てもアングラ系のヤバそうな男がその部屋の奥でパソコンのモニター見ながらなんか話してる」
「あ~……」
「何してんのかな~ってこっそり後ろから見たらザ・ウイルス!!!みたいな緑でねばねばとげどげしたのが画面に移ってて」
「わ~……」
「『これがちゃんと作用すれば体内がどんどん溶けていくようになる。成功すれば我々の時代がやってくるぞ』って話しててね」
「フラグだ……」
「そのウイルスが、最初は摂取した栄養素とかを溶かしてどんなに食べても太らない!て感じらしくて、ダイエットしたい人をターゲットに広めていこうとしてるんだって」
「違法薬物みたいだな」
「そうそう。で、しばらくすると体ん中の色んな神経?信号?とかを阻害したり溶かしたりして食べても食べても空腹を感じるようになって、最終的に内臓が溶けてるのに食べ物を摂取し続けて死ぬっていうやつなんだって」
「……」
「俺の内臓は元気だよ」
「……うん」
「委員長とアングラ男が部屋を出てって、征十郎とあれどうする?て話してるうちにウイルスが画面からすーーーって流れて消えちゃって」
「うん」
「どうしようって話しながら映像スペースに戻ったらさっきのアングラ男と、頭の悪そうな美人と、ヒョロガリおじさんと、漫画に出てくる典型的なオタクがいて」
「典型的なオタク」
「頭にバンダナ撒いてて昔の四角い眼鏡かけてて、チェックのシャツをインした上にしっかりウエストでベルトしめてるようなやつ」
「リュックにポスターささってるタイプだな」
「そうそう。その四人がいて、なんかよく分からん映像をまた観てんだよ。途中で青汁みたいな色した飲み物と、ハンバーガー出されんだけどそん中にあのウイルスが入ってるって直感的に分かる」
「実験体にされてる」
「俺もそう思ったんだけどアングラ男も食べて飲んでんの」
「ええ……?じゃあ委員長が黒幕でアングラ男も闇に葬られるやつか」
「なのかなぁ?委員長はもう出て来ないから分かんないから何とも言えない。俺と征十郎は食べたふりしてハンバーガーと青汁捨てて、早くここから帰ろうって離れようとするんだけど気付いたらミニバンみたいな車に乗ってた」
「逃げ場がない」
「そう。しかも二列目の座席」
「ますます逃げ場がない」
「後ろの座席にヒョロガリおじさんが座ってて、車の外にアングラと美人がいて、その美人の首にアングラが縄巻いて縛って引き摺り始めて」
「えっ」
「怖くて征十郎にくっついて目閉じてたらアングラとオタクが車に乗ってきて、『じゃあ行くぞ』てアングラがどっかに向かい始めちゃったんだよ」
「女の人は」
「多分置き去り。少ししたらオタクが『腹空いたし先に居酒屋行きませんか』て言い出して」
「ウイルス?」
「だと思う。居酒屋についた頃にはもう皆めちゃめちゃに腹減ってたみたいで凄い勢いで注文してばんばん食べてくの」
「うん」
「俺も征十郎もウイルス入ったやつ食ってないから全然腹減ってないから、三人がもう掃除機みたいな勢いで飲み込んでくのを見てるだけだったんだけど、ウイルスが中身溶かしてってるんだなってなんか分かっちゃって」
「……うん」
「でも三人は気付いてないのかそれどころじゃないのか夢中で食べてて、腹がどんどん膨らんで、中が薄っすら透けて見えんだよ」
「……」
「怖いし気持ち悪いし、そう立たないうちに皮膚まで溶けていくような気がして、征十郎のこと引っ張って居酒屋から逃げたっていう夢」
「……はい」
「……俺の内臓は元気だよ」
「うん……」
ウイルスでどうにかなっちゃう人の夢
2023.05.12