「これなに?」
「ナスの浅漬け」
「これは?」
「ナスのはさみ揚げとナスみそ田楽」
「こっちは?」
「ナスとエビのオイスターソース炒め」
「で、メインが」
「麻婆ナスです」
「すごい。ナスしかない」
「ナスが山ほど採れたからって。レシピ通り作ったから味は大丈夫なはず」
「え!?」
「え?」
「これ全部征十郎つくったの!?」
「うん」
「や、やだ~~~~~!征十郎さんお料理も出来るの!?」
「ある程度ならできます」
「スパダリ世界一じゃん」
「とうとう世界一か」
「また大量にお祖母ちゃんから送られてきたのかと思った。すごい。征十郎すごいな」
「今時は料理も出来ないといけないって」
「お祖母ちゃんが?」
「そう。泊まりに行くたびに色々教えてもらったんだ」
「へえ~」
「残ったら冷凍したりしてくれ」
「うん、ありがと!」
「じゃあ温かいうちにどうぞ」
「いただきます!」
「はい、召し上がれ」
「……わ、なにこれ?肉と何入ってんの?」
「刻んだシソ」
「しそ……あ、この前おにぎりに巻いてあったやつ?」
「そう。あれは塩漬けにしたものだな」
「あれめちゃめちゃ美味しかった」
「醤油とラー油で漬けたやつも美味しいぞ」
「え!!!」
「またシソが送られてきたら作ってもってくるから」
「うん。楽しみにしてる。……うわ、これめちゃめちゃ美味しい」
「気に入ったようで良かった」
「もうなんか全部美味しくて泣きそう」
「また情緒が乱れてる」
「はあ~~~~~今世界一幸せ……」
「それは良かった」
「今度は一緒に作ろ」
「……料理できるのか?」
「適当に炒めたチャーハンとか、適当に具材入れたパスタとか、残りもの入れたオムレツとか」
「食べてみたいな」
「じゃあ次は俺が作って、その次一緒に作ろうぜ」
「そうだな、楽しみにしてるよ。……そういえば」
「うん?」
「今日、大和が夢に出てきた」
「お?珍しいな、征十郎が夢覚えてんの。どんなん?」
「多分薬局のようなとこで大和が働いてて、俺は待合室だと思う場所に座ってた」
「すごい曖昧」
「なんかすごく広くて薬局だったのか分からない」
「なんかに併設の薬局だったんかもね。それで?」
「で、俺の番になって呼ばれた時に、待合にいた女の人が急に血を吐いて」
「うわ」
「それが病気とかでの吐き方とかじゃなくて、あの……悪霊モノのホラー映画とかでお祓い受けて黒っぽい液体吐き出すシーンがあるだろ」
「ああ、勢いの良いマーライオンみたいなやつ。え、そんな感じで?」
「そんな感じで」
「わあ」
「それ見て直感的に俺は呪いだって思って、大和もそう思ったようで周りに触らずここから出るようって指示を出していた」
「征十郎は?」
大和に『あれが何か分かるならここにいて』って言われて残ってたよ。ただ女の人は血を吐き続けてたから待合から別の部屋に案内された」
「うん。……待って、あんさ、この味噌どしたの?なんかめちゃめちゃ美味しいんだけど。買ったやつ?」
「それは貰ったやつ」
「お祖母ちゃんから?」
「いや、お祖父ちゃんから。大豆からちゃんと作ったやつらしいぞ」
「え、味噌ってそんな家で作れたりすんの?」
「物さえ揃えば簡単だって言ってた」
「は~~~すごいな」
「結構貰ったけど持ってくるか?」
「征十郎ん家行ったときに食べる」
「分かった。置いとく」
「ん。あ、続きどうぞ」
「ああ……えーと、案内された部屋に刑事のような男が一人いて、その人に聞かれるがまま色々話をしていたんだが、この辺りでどうも呪いが流行っているらしくて」
「ええ?」
「あの女性以外にも呪われた人が結構いるみたいで、亡くなっている方も何人も出ていると男が言っていた」
「うん」
「呪いで亡くなった方からまた呪いが発生することもあるから、早急に発生源を潰さないといけないらしい」
「映画でよくあるやつ」
「この前観たからな。それでそこに俺と大和も一緒に行くことになった」
「一般人を連れて行くなよ」
「俺は一般人だったけど大和は一般人ではなかったぞ」
「お祓いできる人だったってこと?」
「いや……身のこなしが特殊部隊みたいだった。その発生源が新興宗教のようなとこで、儀式をしていたらしい狭い部屋に幹部の男を大和が縄で吊るして知っていることを全て吐かせていた」
「俺そんなことしない」
「イマジナリー大和は拷問に長けていた」
「イマジナリー大和は薬局勤めの民間人ではないのですか」
「薬局勤めは仮の姿なのでは?」
「映画じゃん……征十郎は何してたの」
「見てた」
「拷問してるとこを!?」
「拷問してるとこを。映画で見たことあるなって」
「うわ……刑事の男は?」
「その部屋にはいなかったな」
「職務怠慢じゃん。それで?」
「それで、ある程度吐かせたところで幹部の仲間であろう男が真っ青な顔で入ってきて、その後ろから黒猫が一匹追いかけて入ってきた」
「ネコチャン」
「まだ成猫になってなさそうな小さくてふわふわの黒猫です」
「可愛い!」
「うん、可愛かった。でもその猫に仲間の男は異様に怯えてて、『こいつに噛まれた、こいつが噛んだ』て錯乱状態になって叫び出したと思ったら血を吐きだした」
「嫌な予感がする」
「猫が威嚇するみたいに牙を剥いてから吊るされたままの男に噛みついて」
「はわ……」
「少ししてから男が悶え苦しみながら血を吐いて動かなくなった。猫が部屋を出ていくのについて行くと建物内のいたるところで人が血を吐いているのを発見して、どうも宗教内の人間は全員死んでいるようだった」
「ネコチャンは」
「猫は俺たちを案内し終えたら溶けて消えてしまった」
「ネコチャン……」
「そういう夢でした」
「は~~~最近観た映画とかゲームの影響が濃い」
「うん。如実に反映していた」
「はあ……結局ネコチャンは呪いが具現化したものだったのか?」
「それか依り代的な媒体であった可能性もある。最後の食べていいぞ」
「やった」
「結局ほぼ食べきってしまったな。大丈夫か?」
「うん、めちゃめちゃ美味しかったからなんかまだ食えそう」
「……はち切れる前にやめてくれ」

ネコチャンが呪いの素だった夢

2023.05.09