「思ってた以上に異国感がある」
「働いてる人みんなネパールの人だから中もそれっぽくしてるって言ってた」
「へえ……わ、ほんとに種類がいっぱいあるな。このペーストってベースの味みたいな感じか?」
「そんな感じ。そこまで味の主張があるわけじゃないけど、同じチキンカレーでも風味がこう、違ってくるっていうか」
大和はいつも何にしてるんだ?」
「俺はとりあえず全種類制覇したいからいつも違う」
「そうなのか……スタッフおすすめもいっぱいある……」
「各店員さんのそれぞれのおすすめだからな」
「うーん……大和は今日は何にするんだ?」
「俺は今日はトマトの気分だからトマトペーストのこのカダイシーフードカレーにする」
「トマトもいいな。じゃあトマトのバターチキンカレーにしてみようかな」
「オッケー、ナンはどうする?米にする?」
「普通のナンがいい」
「じゃあ俺チーズナンにするからちょっと食ってみなよ」
「ありがとう」

「お待たせ。シーフード誰?」
「はい。あとチーズナンもこっち」
「ハイ。キミ先週も来てた」
「うん。先々週も来た」
「イイネ。来週も来る?」
「うん」
「OK。はい、こっちバターチキンとプレーンね」
「ありがとうございます」
「ナンはおかわりフリー、美味しく食べて」
「はーい」

「……毎週来てたのか」
「うん、俺の中で週一回カレーの日があるから」
「ふふ、そうなのか。あ、チーズナンは丸いんだな」
「中になんか入ってる系は丸いっぽい。好きなだけ食べていーよ」
「ありがとう。思ってたよりだいぶんナンが大きい」
「食べ応えあるよな」
「このサイズおかわりする人いるのか」
「俺」
「ああ……」
「カレーも自動的に追加注文になる」
「だろうな。あ、美味しい……中辛にしたけどあんまり辛くないな」
「激辛もたいして辛くないって飯口が言ってた」
「ああ、グルメ担当の人」
「んふ、そう、俺のクラスのグルメ担当。美味いっしょ」
「うん、他のも食べてみたい」
「じゃあ来週征十郎も来る?」
「部活とかなければ」
「じゃあ土曜日の夜にしよ。そんまま泊ってけば?」
「そうする」
「じゃあ新しいの買ったからそれやろうぜ」
「今度のもRPGか?」
「うん、ダークファンタジーって言ってた。『工藤氏は絶対ハマりますぞぉ』ってオタちゃんにおススメされたやつ」
「ああ……」
「一回ちゃんと征十郎に会いたいって言ってたよ。遠目に見るだけじゃ分かんないんだって」
「俺は会いたくないし分かられたくない」
「別に征十郎に変な性癖あっても引かないけど」
「そういう問題じゃない」
「頑なだなぁ。じゃあオタちゃんには人に知られたら死ぬ恐れがあるから近寄らないでって言っとく」
「いやそこまで、……うん、そうしてもらおうかな……」
「話変わるけど、今日見た夢の話していい?」
「食事中でも平気なやつか?」
「うん」
「ならどうぞ」
「俺が悪の組織のようなものの一員になってて、三階建くらい普通のビルが拠点」
「そんな普通の拠点でいいのか」
「見た目は普通のビルだけど地下がすごいっていうベタなやつ」
「ああ……」
「地下何階なのかは知らないけどだいぶ深いとこに1LDKのアパートみたいな部屋があって、基本みんなそこにいる。和室とリビングとキッチンがあって奥に玄関扉があるんだけど、その向こうにもう一つ頑丈そうな鉄の扉がある」
「秘密組織っぽい」
「だろ。で、その扉開けたら結構長めの廊下があって、また鉄のドア」
「ドア多くないか?」
「秘密組織だから。その鉄のドア開けると緩やかな下り坂になってて、下ってくと広場っぽい空間に出る。で、奥の壁に覗き窓がついた鉄のドアがある」
「またドア……」
「んふふ、その覗き窓のドアの向こうは狭い部屋が三つ繋がってて、そこで人を殺し合わせてる」
「えっ」
「基本友達同士なんだけど、人数によっては別々の友達グループで戦わせたりしてるっぽい」
「世紀末の話?」
「や、プチバトロワみたいな話。何の意味があってそれやらせてんのかは分かんないけど」
「うわ……」
「部屋の中には特にカメラがあるとかじゃないから何が起こってんのかは開けてみるまで分かんないって感じで、その覗き窓のドアは一回閉めると一定時間経たないと開かない仕掛けになってんだって。で、今回は男五人のグループと、女三人の別グループを部屋にいれてる」
「うん」
「悪の組織のリーダーっぽい男が、もうすぐドアが開く時間になるから行くぞって言ってきて」
「その部屋に?」
「部屋にっていうか、広場に?」
「何しに」
「最終的に全部片付けなきゃいけないんだって」
「最悪だ……」
「で、ドアが開いたら殺しあってた人たちがまあ当然こっちを攻撃してくんだけど」
「敵だからな」
「うん。だから殺されないように上手いことしながら始末しろよってリーダーに言われて。あ、ちょっと待って」

「ナンいる?いらない?」
「ひとつください」
「追加注文?」
「エビサグカレーの中辛ひとつお願いしまーす」
「イイヨ!」

「……サグってほうれん草のか」
「うん。食べる?」
「いや、もう入らないからいいよ。次来た時に食べてみる」
「ん。続き話してもいい?」
「どうぞ」
「ドア開いて、出てきたのは全員女の子でさ、何がどうなったのかもう全身血塗れでそれぞれ包丁とか工具みたいなのとか握ってんだけど、とにかく目が怖い」
「目?」
「うん。ギラギラしてるっていうか殺意漲ってるっていうか……」
「まあ極限状態のようなものだしな。平常ではないだろう」
「まあなぁ。そんで女の子たちがこっち向かってくる最中に目覚めた」
「夢で良かったな」
「ほんとだよ」

悪の組織の一員になってた夢

2023.04.11