「征十郎のお嫁さんになる夢みた!」
「この前もそんなような夢みてなかったか」
「それは天狗の征十郎だから。今回は人間」
「そうか。とりあえず何にするんだ」
「今日は焼きうどん大盛と豚汁」
「豚汁いいな。俺も食べようかな」
「ここのは具沢山で美味しい」
「じゃがいもがちゃんと溶けずにいるのが良い」
「分かる」
「じゃあ俺は野沢菜チャーハンと豚汁にしよう」
「この前食べてたやつ?」
「あれは高菜」
「むずかしい……この前食べ比べしたのにもう分かんない」
「どっちも美味しいでいいんじゃないか」
「まあな。そういや夢に黄瀬も出て来た」
「久しぶりだな」
「うん、相変わらずおかしかった。焼きうどん食べる?」
「少し。重そうだな」
「うどん三玉だって。特盛は五玉」
「特盛ってあのえげつないサイズのすり鉢に入ってくるやつだろう」
「それ」
「いつも思うが誰用なんだこの豊富なチャレンジメニューは」
「相撲部とかじゃない?」
「食事トレーニングか」
「あとは趣味?」
「誰の?」
「校長の」
「そんなことあるか?」
「校長が趣味で大食いユーチューバーしてないとも限らないだろ」
「……そうだな」
「はい、焼きうどんちょい盛でお待ちのお客様ぁ」
「あ、ここです」
「お好みでこちらのゴマをおかけください」
「ああ、ありがとうございます」
「征十郎もやって」
「俺もするのか。……はい、お待たせしました、野沢菜チャーハンプチでございます」
「あざまーす」
「どうぞごゆっくりお召し上がりください」
「はーい。ねえ征十郎のお嫁さんの話していい?」
「ああ、どうぞ」
「神託的なもので結婚相手が分かるんだけど、それで俺は征十郎のお嫁さんに選ばれまして」
「ほお」
「でも俺は征十郎のこと知らないくて、会ったことも無くて、写真でしか見たことがない人と俺は結婚したくないんだよ」
「複雑な気分になってきた」
「大丈夫、現実の俺は征十郎と結婚してるから」
「してたか?」
「してるようなもんだろ」
「そうかな……?」
「それで、その神託受けた帰りに黄瀬が追っかけて来て『気を付けてね、家帰ったらすぐに鍵かけて、誰が来ても開けちゃ駄目っスよ』てすごい真剣な顔で言ってくる」
「怖い夢の話?」
「征十郎が怖い夢の話」
「え、俺が怖い話なのか」
「怖かったな」
「また複雑な気分になってきた」
「あはは。で、家帰って黄瀬の言った通りすぐ鍵かけて、母さんに神託の話してたらチャイムが鳴って。見れば征十郎が立ってて、俺も母さんも居留守すんだけど」
「なんか嫌な予感してきた」
「鍵がさぁ……開いちゃうのよ」
「勝手に……?」
「勝手に」
「怖い」
「ダッシュで玄関行って開かないようにドア押さえて鍵掛けようとしたら、ドアとんとんって」
「ああ怖い……」
「無言の『居るのは分かってますよ』に俺はもうビビり散らしてて、とりあえず静か~に鍵掛けて、裏口から逃亡するんだけど」
「うん」
「まあ追いかけてくるよね」
「そうだろうな」
「とりあえず路地裏とか走って逃げて、俺ん家の近くにあるケーキ屋さん覚えてる?」
「あのボディビルダーみたいな人がやってるとこか?」
「そうそう。そこの店の奥に一定の動きをすると別次元?別世界?に行ける部屋があって、俺はそこに向かう」
「そんなゲームあったよな」
「去年一緒にやったやつ」
「範囲が広すぎる」
「去年何本やったっけ?」
「RPGだけでも五本くらいやらなかったか?」
「……あ~そうかも」
「まあ今年も楽しみにしてるよ。では続きどうぞ」
「はい。えーと、部屋まで辿り着いたんだけど、なんか上手く行かなくて俺はどこにも行けない。嫌になってムキムキボディビルダーに絶対誰も入れないで、誰か来てもいないって答えてっつって部屋の奥で蹲ってたら部屋のドアが開いてさぁ」
「期待を裏切らないな」
「迎えに来たぞって征十郎が俺の前にしゃがんで言うのよ……めちゃめちゃ優しい顔で笑いながら」
「こわ……」
「ほんとだよ。で、気付いたら俺はぼろぼろのビルのエレベーターらしきものの中に立ってる。父さんと母さんも一緒に乗ってて征十郎はいない」
「うん」
「父さんが、下に車があるからそれに乗りなさいって言ってきて、逃げてるっぽい」
「俺から?」
「うん。それで、この乗ってるエレベーターがさ、上下だけじゃなく横移動もするタイプのエレベーターで」
「近未来感があるな」
「見た目はボロいけどね。そのエレベーター、下に向かってたはずなんだけど急に横移動し始めて」
「俺だ……」
「そうです、イマジナリー征十郎さんです」
「怖い」
「俺はもうずっと怖かった。ドア開いた先に立ってて『大和君はいませんか』て聞いてくんだよ」
「うわぁ……」
「俺は奥の方でちっちゃくしゃがんでで、それを父さんと母さんが隠すみたい立ちながら『私たち二人しかここに乗っていません』って言う」
「絶対バレてる」
「俺もそう思うんだけど、征十郎は『そうですか』て引き下がって、エレベーターが動き出したとこで目が覚めました」
「とんだサイコホラーを観せられた気分だ」
「まあ夢みてるときはずっと怖かったけど、そこまで追われるのも悪くないなって起きてから思った」
「……俺に対する諸々がガバガバすぎる」
「うーん、でも実際征十郎なら俺はなんでも許せる」
「許すな馬鹿」

赤司征十郎のお嫁さんになる夢

2023.04.04