「俺が女の子になれるとしたらなってほしい?」
「え、なんだ急に。夢の話か?」
「夢の話でもあんだけど、どう?なってほしい?」
「正直なところどちらでもいい。大和に変わりないなら」
「やだ~~!イケメ~~ン!スパダリ東南アジア代表~~!」
「とうとう世界まできたか。で、何にするんだ?」
「今日はチャーシュー丼と」
「と……?」
「アメリカンドック」
「大きすぎて顎が外れるって噂の」
「まだ食べてないからね。顎外れるからナイフついてくるらしいぞ。征十郎は?」
「高菜チャーハンのセットにしようかな」
「俺時々高菜と野沢菜がごっちゃになって混乱する。違うもんだよな?」
「違うな。使ってる野菜も漬け方も違う。高菜の方が酸っぱい」
「ふーん……この前征十郎が持ってきてくれたのは?」
「あれは野沢菜」
「ほーん……むずかし。どっちも美味しいことしか分かんない」
「はは。うわ、ほんとにナイフついてる」
「これ中ってどこまでソーセージなんだろう……あ、あ~~!見て!征十郎見てこれ!」
「わあ……三本入ってる」
「すごい!ちゃんとみっちりソーセージ!」
「良かったな」
「でもこれアメリカンドック感が死んでる」
「齧りつけるサイズじゃないから仕方ないだろう」
「うーん、味はアメリカンドック。美味しい。征十郎も食べて」
「……思った以上にザクザクしてる。ほら高菜チャーハン」
「これが高菜」
「そうです」
「美味しいことはよく分かる」
「ふふ、そうか」
「ん、そうだ、夢の話していい?」
「ああ、大和が女の子になる夢」
「いや、正確にはなってないんだけど。なれるっていう夢」
「なれる」
「何十人かに一人くらいの割合で男にも女にもなれる人間がいるんだって」
「へえ……」
「で、俺がその中の一人なんだよ。んーと、十六か十八くらいまでに性転換受ければ女性になれますよって感じ」
「手術的なもので?」
「や、スイッチみたいな」
「え、スイッチ?」
「なんか……こう……スイッチを切り替えるイメージなんだよな。手術じゃなくて、脳波的なものっていうか、うーん……」
「なんとなく分かった」
「そんな世界観です」
「はい」
「そこで征十郎は仙人みたいな感じで生きてるんだけど」
「え!?」
「山奥にあるボロい山小屋に住んでて仕事してんだか分かんない感じだけど金はめちゃめちゃある」
「ええ……?」
「三十代くらいで、退廃的な雰囲気で悪い男感があってなんかすごい格好良かったよ」
「うーん……」
「で、俺は征十郎と大人になったら会うって約束をしてて、ずっとずっと会いたくて会える歳になんのを心待ちにしててさ。やっと会える歳になったから会いに行く」
大和は一般人なのか」
「そう。俺はごく普通の一般人」
「お前は一般人の街暮らしで俺は山奥暮らしなのか」
「まあまあ夢だから。山小屋ん中は結構狭くて小さくてボロいダイニングテーブルと椅子が二脚と、ふるーい薪ストーブみたいなのしかない。でテーブルの上に黒い袋があって札束がめちゃめちゃ入ってんだよ」
「犯罪の臭いがする……」
「そん中入った瞬間ボウガンみたいなので撃たれたんだけど」
「物騒だな」
「俺はそれを避けて征十郎に飛び込むみたいに抱き着いて」
「夢のなかで身体能力が馬鹿になることが多くないか」
「夢だからな。征十郎はびっくりしてたんだけど、俺だって分かったらちゃんとぎゅってしてくれた」
「うん」
「結構体格差があって、その後膝の上に座って色々話とかしてたんだけどもうすっぽり収まっちゃうんだよ」
大和が?」
「俺が。こう後ろから抱きかかえる感じで乗せられてたんだけどもうジャストフィットかなってくらいすっぽり。超どきどきした」
「そこまで大きくなれる気がしない」
「今のサイズ感も好きだからいいけど」
「……大和より大きくはなりたい」
「まあまだ成長期だからな征十郎も。ここからちょっとアダルトになるけどいい?」
「え!?」
「大きくなったな、みたいな話になって、もう軽々持ち上げられてくるっと回されて向かい合わせにされて」
「いいって言ってない」
「シャツの中に手入れられて背骨をゆっくりなぞられて、」
「ま、ってくれ……ちょっと待って……」
「そのままもう流れるようにパンツん中に手入れられて尾てい骨つっつかれたり尻揉まれて」
「待ってください」
「はい」
「ここはどこですか」
「食堂です」
「今しないといけない話ですか」
「忘れる前に話しとかないとなって」
「俺の気持ちも考えてくれ」
「……ムラムラさせてごめんね」
「お前……」
「うはは、しわっしわの顔してる」
「はあ……食べ終わったんならもう戻るぞ」
「次からはちゃんと二人ん時にするね」
「そういう夢の話は普通人にしない」
「征十郎が相手なのに?」
「俺が相手でも」
「聞きたくない?」
「き……」
「それどんな感情の顔なん」
「聞きたくないです」
「ふーん……じゃあ一個だけ聞いて」
「なんだ」
「俺が征十郎に性転換受けなかったから男のままでごめんって言ったら、気にしなくていい、俺だから好きなんだって言われた」
「……」
「夢の中でも征十郎はちゃんと征十郎だったわ」
「はいはい……」

性別を選べる人種になった夢

2023.03.11