「いらっしゃいませ、二名様でよろしいですか」
「はい」

「こんな店が近くにあるなんて知らなかった」
「知る人ぞ知るって感じらしい。俺もクラスの奴に教えてもらうまで知らなかったし」
「ああ、同じ委員の」
「そう、飯口っていうんだけど。飯に口って書くからグルメにならなきゃって思ってるらしいぞ」
「それはまた」
「時々鬼気迫ってて怖い」
大和のクラスは変な奴が多いな」
「俺のイチオシはオタちゃんだよ」
「おたちゃん……ああ、漫画のおすすめしてくれる?」
「そうそう、会った人間の“性癖”を見抜いて最適な漫画をおすすめしてくれる」
「改めて聞くとすごく怖い」
「『所謂他人の“ヘキ”なんぞというものが拙者には目に見えてしまうのですな……どれくらい目に見えているかというとでかでかと顔面に書かれているくらい目に見えてしまう』だって」
「怖い」
「笑い方が『コポォwww』とか『フォカヌポウwww』とかなんだよな」
「なんて??」
「俺もネットでしか見たことない感じの人種だったから最初は戸惑ったけどイイ奴だぞ」
「へえ……よく一緒にネットゲームしてるのもその人か?」
「ゲームしてんのはミワちゃん」
「また新しい人だ……」
「ミワちゃんはあんまり学校に来ない」
「そうなのか?」
「なんか負けられない戦いがあるっつって最低限の出席しかしないんだよ」
「はあ」
「時々蛮族になるけど概ね普通の大人しい奴だから征十郎でも仲良くなれると思う」
「……そうか?」

「お待たせしました、クアトロチーズピザとアラビアータのセットのお客様」
「はい」
「こちらの蜂蜜はピザ用になります」
「ん、ありがとうございまーす。あ、いっぱい入ってる!」
「お好みでおかけください。こちらがシーフードピザと明太クリームパスタのセットでございます」
「ありがとうございます」
「以上で注文はお揃いでしょうか」
「はーい」
「ではごゆっくりどうぞ」

「めちゃめちゃ美味そう……蜂蜜全部にかけていい?」
「いいぞ」
「ああ~罪深そうなにおいがする……いただきまーす」
「いただきます」
「……このアラビアータ美味すぎて泣きそう。丁度いい辛さだぁ」
「ん、ピザも美味しいぞ」
「思ってた倍くらいシーフード乗ってんな。エビとイカとなに?貝?」
「ホタテ」
「……ちょっとこのエビぷりぷり過ぎん?どうなってんの?美味すぎてキレそう」
「お前のその美味しいもの食べると情緒不安定になるのなんなんだ」
「美味いもん食うと平静でいられなくない?ん、征十郎こっちも食べてみて」
「うわ、チーズが……チーズがすごい伸びる……」
「蜂蜜まだあるから掛けたかったら掛けて」
「うん」
「美味いでしょ」
「うん」
「気に入った?」
「……次はセットじゃなくて単品の大きいやつにしよう」
「持ち帰りもできるらしいから家でピザパに出来るぞ」
「来週持ち寄りピザパするか」
「持ち寄り?」
「副会長の田中が窯焼きピザの店を教えてくれただろう」
「あ、この前行ったとこ?もっちもちの?」
「そう、結局五枚食べたところ」
「じゃあ俺が窯焼きのとこの買ってくから征十郎はここのやつ買ってきて」
「分かった」
「んふ、楽しみ。……もうちょっと食べてもいい?」
「どうぞ」
「征十郎は?」
「俺はもういい」
「じゃあリゾットとピザのセットにする。あ、アランチーニだ……チーズ入ってる……これも頼んでいい?」
「余ったら持ち帰ればいいから好きにしていいぞ」
「ん。すいませーん」

「そういえば今朝、征十郎が先生の夢みた」
「学校の?」
「ん~……学校のようなもの?でも場所は征十郎の家」
「塾みたいだな」
「あ、そう。そんな感じ。征十郎ん家のあのー、よく分からん宴会スペースみたいなとこあるじゃん」
「座敷のことか?」
「そうそうそれ。そこで征十郎は変身術みたいなの教えてた」
「ファンタジーだな」
「征十郎が持ってくる淡い緑色の不思議な形したお菓子を食べて、なりたいものを想像すればそれになれるんだよ。でもそれが出来るようになるには物凄く時間がかかるらしくて、きちんと繰り返し練習しないと出来ないんだって」
「うん」
「皆がそれぞれなりたいものとか言ったりなんだりわいわいしてる中で征十郎に呼ばれて、お前はもう出来るなって言われて。で、まあ俺も自分がもう変身できるって知ってんの」
「何になるんだ?」
「ドラゴンに近い何かかなぁ。悪魔の羽みたいなのあんじゃん?」
「ああ、蝙蝠みたいな?」
「そうそう。そういう形の硬い羽根があって空飛べんだよ。征十郎にみんなの手本になってくれって言われたから変身することになって、みんなでテーブルとか椅子よけてスペース作ってもらって、お菓子食べなくてももうイメージするだけでいい」
「おお」
「で、ちょっとだけ助走つけたらもう、こう……羽根がばさっと出て変身した」
「楽しそうだな」
「楽しかったよ。ばーって飛んでたら最終的に家はめちゃくちゃになったけど」
「おい」
「お待たせしました、生ハムとモッツァレラチーズピザとキノコリゾットのセットでございます」
「はーい」
「こちらがアランチーニでございます。中が非常に熱くなっておりますので気を付けてお召し上がりください」
「はい、ありがとうございます」

「征十郎も食べる?」
「一切れだけ」
「リゾットは?」
「リゾットはいい。アランチーニは食べる」
「ん、切っていいよ」
「……思った以上にチーズだな」
「すげ~!とろとろだぁ」
「……あっついけど美味しい。トマトソースが美味しい」
「好きなだけどーぞ。映画何時からだっけ?」
「十五時」
「あ、じゃあ映画館の近くに新しく出来たっていうカフェ寄ろうぜ」
「まだ食べるのか……」

赤司征十郎が変身術を教える先生だった夢

2023.03.09