「今日はステーキ丼にしようかな」
「めずらし、どしたの」
大和がこの前狂ったように食べてたから俺も食べてみようかと」
「言い方」
「実際おかしかった」
「否定出来ない。じゃあ俺は親子丼にしよ」
「オレンジ食べるか?」
「いる~。じゃあ漬物お裾分け」
「ありがとう」
「そういえば今日征十郎にストーカーされる夢みて」
「ほお」
「聞く?」
「聞こうかな」
「母さんとタワマンくらいありそうなデパートに買い物に行って、デパートと中で繋がってる高級ホテルに泊まるんだけど、その部屋に誰かがいた痕跡があって。ベッドシーツが座った後みたいにへこんでたり、椅子がちょっとずれてたり」
「俺は痕跡は残さないが」
「怖いから真顔で言わないで。で、俺はちょっと前からストーカーされてるみたいだけど誰にもそのことは話してない。俺はその痕跡がストーカーの痕跡だって分かってるから気持ち悪かったんだけど、母は高級ホテルなのに掃除ちゃんとしてないのかしら~?みたいな感じであんまり気にしてなくて」
「ふふ、大和のお母さんっぽい」
「おっとりおおらかのO型だからな。その日はそのままその部屋に泊まったんだけど次の日母さんひとりで先に帰っちゃって、俺は一人でチェックアウトして帰ることになったんです」
「絶対いるやつだな」
「うん。荷物纏めて部屋出たら気配してたからいた」
「一人で帰る大和が心配だったんだろう」
「俺はただただ怖かったよ。フロントで鍵返すときも追っかけて来てるっぽくて、怖すぎて車で迎えに来てた父さんにそのこと話したら引っ越すことになった」
「まあ当然だな」
「引っ越した先は小さめのアパートで、俺の部屋におっきい窓があんの。結構眺めがよくて気に入ってたんだけど」
「すごく先が読める」
「そうです。しばらくなんともなかったのに、帰ったらもう部屋がおかしいんだよ」
「出た」
「レースのカーテンが開いてて、窓に丸く穴が開けられてて、もうめちゃめちゃ怖かったよ。すぐに部屋出て母さんと父さんにストーカーが来たって叫んで、父さんと一緒に部屋戻ったら知らない男女五人くらいいて」
「うん?」
「誰だって聞いたら舞台監督と脚本家と演者ですって言われて」
「ええ……?」
「その中に、人畜無害ですみたいな顔してる割にはサイコパスみが滲み出てる征十郎がいて、俺は直感的にストーカーだって気付く」
「異議あり」
「はい」
「ストーカーではなく見守りです」
「時点でそれはストーカー行為です。有罪にしたかったけど、警察呼ぼうとしたら謝られてさ」
「まさかそれで許したのか」
「うーん、もうしないっていうし」
「そんなもの口ではいくらでも言えるだろう」
「なんでキレてんだよ……」
「危機管理がなってなさすぎる」
「え~、じゃあもうやめとく?」
「一応最後まで聞いておく」
「怒んない?」
「怒るようなことがあるのか」
「危機管理が~ってまた言いそう」
「……まあ聞こう」
「じゃあ……とりあえずちょっと話をしようみたいな流れになって、監督が買って来た高そうなお茶を征十郎が淹れてくれるって言うからキッチンに案内した」
「うん」
「お茶請けに脚本家さんが持ってきたなんか抹茶っぽい……羊羹のような見た目の四角いなにかを出して」
「羊羹じゃないのか?」
「うーん……わかんない。真緑だったからさぁ、ちょっと俺は食べたくなくて征十郎に味見して一口分くらい切って、あーんしたんだけど」
「……」
「だって征十郎お茶淹れてて手塞がってたから」
「何も言ってない」
「顔が言ってんだよな~。征十郎はその真緑の怪しいなにかをまあ照れ笑いで食べてくれて、そしたら苦いって顔顰めてて可愛かったって夢」
「はあ~……」
「ぎゅっと目も瞑っちゃってさぁ、めちゃめちゃ可愛かったのよ。絆されるわあんなん見せられたら」
「狙ってやってるとしか思えない。そんなものに絆されるな」
「また怒る~。相手はお前だぞ」
「俺ではない」
「イマジナリー征十郎だけど、精度的には現実征十郎とほぼ変わりない」
「聞き捨てならないな。俺はストーカー行為などしない」
「見守りはしたいんだろ」
「お前の危機管理が酷過ぎるからな」
「俺の部屋にカメラ付けていいよって言ったら付ける?」
「……」
「付けたいんだな」
「何も言ってない」
「顔が言ってるよ征十郎」
大和がしっかりしてないから」
「すぐ俺のせいにする~。まあいいけどさぁ」
「いいのか」
「見られて困ることないし。なんかあればすぐ征十郎が対応すんなら楽」
「……」
「なにその顔。今どういう気持ちなん?」
「喜ぶべきか怒るべきか迷ってる」
「怒られたくないし喜んどいて」
「はあ、全く……」

赤司征十郎にストーカーされる夢

2023.03.05